運命伐採6
城の最上階に着いた時。
「待っていたぞ」
そこには黒い衣服を纏った、暁色の髪を持つ男性の姿があった。
「きみは、誰」
険しい表情で黒髪の若者が問いかける。
「俺は運命の大樹の守護の役を司る、『精霊の偽王国』の王。『暁の君』だ」
そして、『暁の君』は術師を見て表情を綻ばせた。
「よくやった、29番目」
「……『無傷で連れて来る』、と約束致しましたので」
氷像のようにつんと澄ませた表情のままで、術師は淡々と述べる。
「やっぱり、『暁の君』に命令されてたんだ」
と警戒を強める若者達、静観する虚界伯(と魔女)。
「貴女方は其処で見ていなさい。……貴女方に出来る事は無い」
術師は静かに魔女と若者達へ告げた。
「ところでお前、なぜ奴らを捕まえている?」
「私と客人に危害を加えようとしたので」
「そうか……お前達、これに懲りたらこいつにあまり意地悪をしてくれるな」
表情も変えず、術師は答える。引きずってきた、後ろの簀巻きの集団が悔しそうに呻くのが聞こえた。
「もうじき、この運命の大樹は花が咲くぞ」
「然様ですか。矢張り、既に準備をされていたのですねぇ」
「それは無論だ。『樹木の破壊者』が来るからと準備を急いだのだからな」
「処で。他の者達は?」
「魔力を提供するにあたって、生贄にした。ちゃんと、死なない程度に搾り取ってやったのだから生きている筈だ。……そうだ、お前達の魔力も使ってやろう。我らが『神』に捧げられて光栄だろう?」
そう言い、『暁の君』は魔女達の後ろで簀巻きになっていた偽王国の者達の魔力も使い出す。
「……是以上引き摺り出されては、生命に影響が有りまする」
「そうか。だったら良い。あとは俺の魔力でやる」
簀巻きの者達は呻き声すらあげなくなっていた。『暁の君』の魔力は相当な量で、それは若者達を圧倒するほどだった。そして、メキリと軋む音が周囲に響き始め、『花』を咲かせる。
「既に神を下す準備もできているぞ!」
若者達を見て笑う『暁の君』。
「是から如何為るお積もりか伺っても?」
「それはもちろん、お前達『樹木の破壊者』共の抹消だ! そして世界に我らが『神』を降ろし、世界のきまりや約束事を破壊し! 俺が王となる世界を作るのだ!」
そう、堂々と宣言する『暁の君』を見、術師は口元を覆う布の下で嗤った。
「然様ですか。……皆様、お聞きになられましたか。『暁の君』の堂々たる宣言を」
そう、周囲を振り返る。斜陽卿と曙光卿、猫と魔女は頷いた。
「小娘。『実』を回収しますよ。今が潮時です」
「え」
戸惑う魔女を片腕で抱え、術師は放る。
「わーっ!?」




