運命伐採5
「確かに助けてくれたり役に立ってくれたりしたけどさ。君は、『智の国』で悪いことしてなかった?」
そう黒髪の若者が訊いた時、術師は若者達を振り返った。
「其の、『智の国』で悪いことをした人物の髪色と目の色は何色でした?」
「えっと……白髪と、赤い、目……」
「成らば。私でない可能性の方が高いのではありませぬか」
「……そんなわけ」
「其れに。仮に其の者が私だったとして。一体、何時其の者が民を虐げました?」
「へ」
「平安泰平の儀を提案したのは事実でしょう。ですが、方法は指定して居なかったのでは。ただ、『力比べをせよ』としか規定に記載されていなかった筈ですよ」
「そんな……」
「而、あの国を統治していたのは其の者ではありませぬ。樹木に関わろうとした際、役人が出てきたのでは?」
「……そう、だったね」
「栄光の樹木は影響範囲を建物のみに指定し、最低限に留めた」
「……魔女の誘拐は」
「記憶を取り戻すための作業を致したのでしょう。結果、記憶を取り戻して居るでしょう。彼女に問うても宜しいですよ」
「『霊の国』の件は? 君が上の方に関わっていたとか聞いたんだけど」
「それは彼が勝手に行ったことでしょう? 其の者は誘拐等の指示はして居りませぬ。教唆も。其の者を見つけた際に、自白剤を使うても宜しゅう御座いますよ」
黒髪の若者の問いに、術師は澱みなく答える。それに対し、若者達は絶句してしまった。彼の発言を事実とするのなら、実際に彼が悪事をやっただろう証拠が、かなり少なくなるのでは、と思ったのだ。
「……今のところ、彼が偽王国の者であるという証拠すら無いわよ。……供述される魂の色が違うから」
そう、斜陽卿が若者達に告げた。今の彼はただ黒い服を纏っているが、実は偽王国の者が着ている服とは少し形状や布地が違うのだ。
実際、術師が悪事をしているという物理的・魔術的な証拠はどこにも残っていなかった。この魔術で作られた拠点の中には、術師の魔力の痕跡など一変もないのである。
「そろそろ、先へ進んでも宜しいか。寄り道等している暇は有りませぬ」
そう、術師は少々面倒そうに言った。
「きみの目的は、なに」
「直ぐ分かります。説明の時間が惜しい」
黒髪の若者へ、端的に術師は答える。
「そう言いつつ、少し時間稼ぎしてないかしら」
だが、斜陽卿は少し考えてから言葉を発した。
「……何故、そう思います?」
「多分、タイミングを見計らってるのよね」
「……ふふ」
斜陽卿の言葉に、術師は息を零し笑う。
「慎重にしている、と言って下さいませぬか。此方にも、此方の都合がある」
「そう。まあ、時間稼ぎをしただけで色々言いはしないわよ。ねぇ?」
興味なさげな猫を斜陽卿は優しく撫でた。
「そうして頂けると助かります」
そのやり取りを見ながら、魔女は「(誘拐された時の怖かった出来事話したらそっちで捕まりそうだな)」と思ったのだが、言わないでおいた。多分ショック療法だったのだ。




