運命の樹木伐採
曙光卿の鍵で虚数世界が開き、若者達と魔女は先に進むように促される。
それに従い、魔女と若者達が虚数世界に入った時。
「ようこそ、お越しくださいました」
そこには常盤色の目の男性が立っていた。
「——ねこちゃん」
魔女が小さく呟く。
長く伸びた黒紫色の髪が、風で靡いていた。その背後に見える『虚数世界』は、満天の星のような様だった。
「流石、私の娘ですねぇ。座標、時間共に丁度です」
術師は、曙光卿を見、笑った。
「では。私ともお別れですね」
そう、隊商長が目を細めた。
「言伝通りに、『月の先で自身に届ける』。やりましたからね。――どうか、お元気で。また会いましょう。あと呪猫当主、預かっておきますね」
魔女と若者達はいつのまにか虚数世界に居り、振り返っても退路も無かった。
「そんな、」
若者達が戸惑いの声をあげたその時。
「お前達が来るのを待っていたんだ!」
偽王国の者達が姿を現した。
「……おやおや皆様、お揃いで。何をしにいらっしゃったのです」
首だけで振り返り、ゆったりと術師が問うた。
「あんたが『樹木の破壊者を迎えにいく』と言ったからその手伝いに来たんだよ! 『暁の君』の元へ連れていくつもりだろう?」
「ええ、そうです」
「その手柄を独り占めなんてさせない!」
偽王国の者達が、攻撃を仕掛け出した——
——だが。それは、常盤色の魔術結界にて阻まれた。術師が、魔女と若者達を守ったのだ。
「何してんの29番目!」
偽王国の者が叫ぶ。
「はて」
だが、術師は涼しい顔で身体ごと振り返った。
「29番目とは、何方のことですか?」
「は?」
偽王国の者達が戸惑いの言葉をあげたその時。
術師は宮廷魔術師の杖を取り出し
「『縛』」
と短く告げた。その途端、偽王国の者達が全員、拘束されたのだ。それは一瞬の出来事だった。身動きの取れない偽王国の者達は、身体だけでなく口も塞がれており唸るしかできない。
「——さて。是にて証明は出来ましたでしょうか? 裁判長殿」
術師が振り返ると
「まだですね」
斜陽卿の肩に乗った猫が、人の声でそう答えた。
「然様ですか」
少し残念そうにしつつも、それが本気で残念そうではないようだと魔女は察した。
「気を取り直して。では、皆様を『暁の君』の元へお連れ致しましょうか」
そうして、術師は魔女と若者達の前を歩き出す。他にもやりようもないので、魔女は彼の後を着いていった。慌てて、若者達も続く。
「私の戦闘指示が役に立っている様で、何よりです」
少し歩いて、振り返らずに術師は若者達へ告げた。その言葉に若者達が戸惑っていると
「『霊の国』で手合わせをし、私が指摘した箇所を修正したのでしょう?」
そう、術師が言葉を続けた。
「それはそう、だけど……」
黒髪の若者は戸惑いつつも頷く。他の魔術使いの若者と聖職者の若者も頷いた。
「何のつもり」
魔女が声を掛けると
「貴女方を手伝う積もり、ですが?」
そう、術師は答え足を止める。そして、首元の布をずらして首輪を見せた。
「忘れた、とは言わせませぬ。私をこうした始末、畜生として扱った恥辱。晴らさで於くべきか」
ジト、とした目で魔女を睨む。
「ごめんってば。さんざん謝ったでしょ」
「私は赦して居りませぬ」
その様子に「あらー」苦笑いする斜陽卿。曙光卿は一瞬呆けた顔をし、次に顔をしかめた。
「あれ、それって……」
「私達を助けてくれた猫の……」
「首元に着けたもの、ですね……?」
若者達が酷く戸惑っている。
「……仕方ないですね」
「あら、いいの?」
斜陽卿の肩に乗る猫がため息を吐き、斜陽卿は聞き返す。
「なぜあなたが『29番目』なる者に間違われるかは知りませんが、証明を認めましょう。今のところは」
そう、猫は告げたのだった。




