知恵伐採19
「伴侶に呼ばれた、ってどういうこと?」
「それは……説明がめんどくさい」
少しがっくりする魔女、だが長女らしいとも思う。だがどうやって詳細を聞こうか、と思案する。
「とり、説明する?」と長女が問うと『詳細を知るわけがないだろう』と言いたげにとりはふいと顔を逸らした。それもそうか、と言う顔をし深めにため息を吐く長女。長い話になりそうな予感がした時。
「あら、もう揃っていたのね。早いのは丁度よかったわ」
と、肩に紅茶色の毛並みの猫を乗せた魔術師が現れた。音もなく急に現れたので、若者達は即座に武器を構える。
「あら、ごめんなさいね。大丈夫。アタシはアナタ達の敵じゃないわ。争うつもりは全くないのよ」
そう、現れた魔術師は柔らかい声色で自身に害意がない事を表した。手袋を着けたまま両手を上げ、杖を持っていないことも見せる。それを見て安心したのか、若者達は武器を下げた。
「アタシも呼ばれていたのよね、その人に」
「誰?」と不思議そうな若者達に
「ただの宮廷魔術師、よ」
そう魔術師がウィンクをすると、肩に乗った猫が「違うでしょう」と言いたげに鳴く。
「鮮やかな人!」
「ふふ、素直ねぇ」
魔女は宮廷で出会っていた魔術師だったので、見覚えがあった。確か、伴侶の同僚で天秤宮の室長補佐をしている人だ。(おまけに、肩に乗っている猫の毛並みが天秤宮の室長とあまりにもそっくりである)
どうやら『ただの宮廷魔術師』だと言っていたが、そうでもなかったようであった。
「アタシ達は、『虚界伯』。アタシは斜陽卿よ」
「……私が、曙光卿」
「そうなの……?!」
魔術師と長女の言葉に、魔女は目を丸くする。
虚界伯とは天と地の境目を守る役割を持った、世界にたった3名しかいないとされる者。身分はどの国でも侯爵に準ずるものとされている。つまり、なんかすごい人(※魔女基準)だ。
そんな虚界伯が2人(しかも一人は自身の娘)も何の用事だろうか。
「ずっと、見ていた。あなた達を」
曙光卿が端的に述べ、
「虚界を渡らせるのに十分な素質があるかどうか、ね」
斜陽卿が補足する。
「私達は認めた。あなた達に資格がある事を」
「つまり。『虚数世界』で悪さをしないか確認して、大丈夫だと判断したって事ね」
「世界を、開けてあげる。この先に、進むといい」
「気を付けてね。アタシ達も見守りとしてついて行くけれど、アナタ達の手伝いはあまり出来ないわ」
斜陽卿が見守る中、曙光卿が鍵を取り出し空間に挿し回す。
そうすると、ゆっくりと世界が開いた。




