知恵伐採18
「最後の樹木の話をしておく」
縛られたままで、1番目が言葉を零す。
「最後の、樹木?」
「『暁の君』の樹木は……現実には生えていない」
聞き返す黒髪の若者に、1番目は衝撃的な事実を伝えた。だが、詳しいことは告げずに
「月の先に行けばわかる。ただ君達がこのままなら、すべての樹木を破壊することは絶対に無い」
そうして、姿を消した。どうやら逃げられてしまったようだ。
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「『月の先』というのは、『月の岬』の事だと思うんですよね」
そう、隊商長が言ったので『月の岬』に行く事に。
月の岬は、『月の島国』の最北端にある場所だった。そこから、暗くて深い海と、地域に白い大陸らしきものが見える。
「かつて、『天の国』と呼ばれる国があったそうです」
「でも、その国は滅んでしまった」
白い大陸を見、隊商長は告げた。
「樹木の影響ではないですよ。そのずっと前から、『天の国』は滅んでいたんです」
若者達に、隊商長は補足説明をする。
「天の国に生えている様に見える樹木は、蜃気楼だった様です」
一度、冒険者達により『天の国』が有った大陸にも調査が入ったらしい。
「ここの世界には生えていなかった、そういう事ですね。……だから『君達がこのままなら、すべての樹木を破壊することは絶対に無い』と、彼は告げた訳でしょう」
そう、隊商長は呟く。
「……だけれど、『暁の君』は君達『樹木の破壊者』達が『虚数世界』へ渡ってくるだろうと確信している。それが今すぐでも、何年先だったとしても」
白髪の若者は言う。その言葉には確信があるように力強い。
「もちろん、最後の樹木の場所に行くつもりはあるよ」
「方法は分からないけれど」と黒髪の若者は苦笑いをした。正直に言うと若者達の魔女も、方法はよく分かっていない。
「僕達なら、絶対に行けると思うんだ。そんな気がする」
そう黒髪の若者が言ったところで
「……『虚数世界』に行くのに丁度いい人、いますけどね」
あっさりと隊商長は言った。
「え、本当?」
「きっと、こうなることを見越していたんでしょうね」
驚く黒髪の若者や他の若者達、魔女をそのままに隊商長は振り向いた。
「で、結局は誰の依頼でここに来たんですか。貴女は」
「……ぱぱのおねがい」
そこには、銀色のとりに乗った赤銅色の目の長女が居た。濃藍色の髪が、風でざわりと棚引く。
「やっぱり、そうですか」
「うん。時間も合わせてるから、ちょっと待って欲しい」
そうとだけ告げ、長女は懐から懐中時計を取り出した。
「……もうすぐ、くる」




