知恵伐採17
「……あった」
山頂の、開けたそこには灰色に輝く実があった。
やはり色は樹木の葉に似ているようだ。
灰色で、不思議な煌めきを持っている。
木の実は遥か高い場所にあった。
そのはずなのに、気付けば手の届く位置にある。
思わず、魔女はそれに手を伸ばした。
ぷち。
手のひらの上で木の実の千切れる音がして、手元に木の実のずっしりとした重みがかかる。
その瞬間、木の実が消えた。
「わ、」
樹木が震え出す。
魔女は急いで若者達の元に駆け出した。
×
「みんな、大丈夫?」
魔女が『実』の回収を終え若者達のもとへと戻ると、戦闘は終わっていたようだ。
「ええ、大丈夫ですよ。私が付いていますからね」
そう、隊商長(ほとんど汚れていない)がふん、と息を吐いた。
「今回は珍しく、呪猫当主も力を貸してくれたようで」
と、隊商長は札に視線を向ける。
『まあ、腕鳴らし程度には丁度良いだろうと』
そう、呪猫当主が軽く返した。
「よかった。……それで、さっきの人は?」
と魔女が周囲を見回し1番目を探すと。
「捕縛してますよ。魔術の発動はできないように、自害もできないよう命令を下しています。大丈夫ですよ」
「そっか。ありがとう」
隊商長が教えてくれ、お礼を言ってから魔女はその方向へと向かった。
「きみにも、回復用のお薬分けてあげるね」
そう告げ、魔女は満身創痍の1番目に回復薬を掛けてやる。
「君はなぜ、そう優しく有れる」
「?」
絞り出すような1番目の声に、魔女は首を傾げた。
「君は『薬術の魔女』だろう。……あらゆる悪意にさらされていたはずだ」
「うーん、それはそうだけど」
思えば、様々な悪意に晒された。そう思い出す。その様子を1番目は静かに見ている。
「だって、きみにはもう悪意もわたし達をどうにかしてしまおう、なんて気持ちも残ってないでしょ?」
魔女が1番目の方を見ると、1番目は少々気まずそうに視線を逸らした。
「なら、わたしがきみにいじわるをする理由はないし。それなら助けた方がいいでしょ」
魔女は淀みなく答える。すると、驚いた様子だった1番目が、何か納得が行った様子で息を深く吐いた。
「……そうか。君はそういう人、だったのだな」
「どうしたの」
「いや。彼が執着していた様子を見せていたから、気になっていただけだ。深い意味はない」
執着していた人、というのは伴侶のことだろうか、とすぐに想像がついた。
というか、一時一緒に居ただけの『偽王国』の者にも気にされるレベルで執着していたらしい。伴侶らしい、とは思いつつもう少しどうにかならなかったのかと少し過った。




