知恵伐採16
それから。
若者達は霊樹の根元に辿り着く。巨大樹木ほどではないが、相当に大きな木だった。周囲一帯の樹木とは桁違いに大きく、不思議な気配がする。
「待っていたぞ」
そこには髭を生やした男性の姿があった。
「きみは、誰」
険しい表情で黒髪の若者が問いかける。
「俺は知恵の大樹の守護の役を司る、『精霊の偽王国』の1番目」
「待っていたよ……これで気が楽になった。ありがとう」という1番目の言葉に、若者達は首を傾げる。だが「こうすれば分かるかな」と1番目がフードを深く被る……と。
「案内してくれた人!」
「さっきぶり、だな」
霊樹の根本まで案内してくれていた男性だった。
「俺は、純粋に『木のある国を良くしよう』と思っていた。……だが、『暁の君』は少々意見が違ったらしい。ずっと……本当は『これでよかったのだろうか』と葛藤していた」
1番目は少し、寂しそうな表情になる。
「どうして、僕達を案内してくれたんですか」
「君達の事を知りたかったんだ」
問う黒髪の若者に、1番目は素直に答えた。その言葉は偽りではないらしい。
「それに、『暁の君』から樹木を破壊させてやれと命令が降っている。手引きしたって叱られる言われはない」
「つまり、僕達と話をしてくれる……ってことでいいんですか?」
「それはもちろん」
「よかった、話が通じるんなら戦う必要はないよね」
「……そういうわけでもない」
「へ?」
「俺は『暁の君』から、君達の抹殺を依頼されている」
「……それは」
「樹木を破壊した後の話だ。樹木を破壊するまで、君達には手を出さないよ」
「……それを聞いて安心、するわけないよね」
「そうだろうな。……言っておくが、俺は強いぞ」
1番目はまっすぐに若者達を見る。恐らく、手加減するつもりはないだろうと予想が付いた。
「そうだ。そいつは強い。『暁の君』の守護もやっていたくらいだ」
「そうなんだ」
白髪の若者の言葉に、黒髪の若者は頷いた。きっと、出会った当初から、白髪の若者は1番目の正体を見抜いていたのだ。
「俺を倒したら、『暁の君』の事と『天の国』への行き方を教えてあげよう。……勝てたら、だが」
「もちろん、勝つよ」
煽る1番目に、黒髪の若者ははっきり答える。他の若者達もそのつもりらしい。
そうして、黒髪の若者の方が先に動いた。
×
「……ほら、あんたはさっさと樹木の実とやらを回収しに行ったらどうですか」
隊商長に背中を押されて、「分かった、行ってくる」と魔女はその場から離れた。
きっと、若者達が勝つだろう。




