知恵伐採10
「次の国が見えてきたよ」
窓の外を見ていた黒髪の若者が、周囲に告げる。
「灰色の葉が見えるわ。花の島国と一緒ね」
そう、魔術使いの若者は零した。
「つまり、樹木に支配されてる国っていうことですね。……樹木の破壊で悪影響がなければ良いのですが」
「大丈夫だよ、なんとかなるって」
「そんな軽い調子で大丈夫かしら」
「前の国でもなんともなかったんだから、今回も大丈夫だって」
聖職者の若者が吐き出した不安に、黒髪の若者は軽い調子でその背を軽く叩く。
「どうしたの? なにか気になることがある?」
そんな若者達の様子を眺めている長女に、魔女は声をかける。今日の長女は、珍しくも魔女達の近くに居たようだった。
とりは長女のすぐ側で大人しく座っている。
「ん、」
なんでもない良いたげに、長女はゆるゆると首を振った。
「まま。気をつけてね」
「え、うん」
「わたしはどうとでもなるから」
「うん?」
そのまま長女はとりに乗ったまま、どこかへ移動してしまった。
どこいっちゃったんだろ、と思いつつも一緒に行くような約束をしたわけじゃないしなと思い直す魔女。
次女は目的があって一緒に行動していたが、長女はどうなのだろうか。『心配だった』と告げていたので、なにか良くないことが起こるのだろうか、と思う。だが、次女や伴侶のように先が見えるわけではないので深く考えるのは止めた。
「君はどうするの」
ついでに、魔女は近くに居た隊商長に聞く。
「今回も、一応あなた達について行く気はありますよ。道中で足が必要になるかもしれないでしょうし」
隊商長はそう告げた。
「……でも、なんだか嫌な予感がするんですよねぇ」
「嫌な予感?」
「伴侶なら『絶対に行くんじゃねーよ』って言いそうな気配というか予感です」
「じゃあ、ついて行くのやめとく?」
「……いいえ。今回はついていきます。この国の姿をちゃんと見ておかなきゃ、きっと後悔する気がするんで」
「そっか……無理はしないでね」
「無論、無理はしません。無理だと思ったら、私は勝手に撤退するんで」
隊商長は宮廷魔術師でもあったので、それなりに魔術の扱いが上手い。だから、自分1人の身くらいは自分で守れると言っているようだ。
魔女自身はかなり運が良い方だと思っているので、何か良くないことが起こってもなんとかなるだろうと考えている。
そこまで考えて、ふと若者達はどうなのだろうかと思考が過ぎった。以前の隊商長の言葉を思い出せば『こんなに事が上手く運ぶとは。さすが『神に選ばれた者』ですね』という感じだったので、彼らの方にもそう悪いことは怒らないだろう。
なら大丈夫そうだな、と魔女は楽観的に思ったのだった。




