知恵伐採9
「お疲れ様、『呪う猫』ー」
「あともう少しで終わりだ」と『黒い人』は『呪う猫』を出迎えた。彼は助言者としての仕事を終えたと言うのに、まだどこか緊張している面持ちの様子だ。
彼は石橋を叩いて渡るタイプだ。おまけに、いつ落ちても良いように事前に橋の調査や前準備もするような。
『黒い人』にとってはやり過ぎ、のような気がする(が、『黒い人』はあまりにもてきとう過ぎると『白い人』がため息を吐いた気配がした)。
「全ての樹木がなくなるまで、あと少しだね」
『樹木の破壊者』達は、確か最後から2番目の巨大樹木の元へ向かった。きっと、彼らは難なく伐採できるだろうから、すぐに最後の一つにまで辿り着くはず。
「ここまでよく頑張りました。よしよし要る?」
「不要です」
「ちぇ。『命の息吹』からのよしよしの方がいいかな」
提案を素気無く断られ、『黒い人』は口を尖らせた。だが、彼は基本的に『命の息吹』以外に対しては辛辣なので、そういうものだと思っている。
「処で。本当に、是で全てが解決為るのですよね?」
「何を今更。神を疑ってるわけ?」
「……そうではなく。伴侶が、虚霊に襲われる事無く、永く生きられる様に成るのですよね?」
「もちろん。嘘じゃないよ」
『ってか君が守ってない間も、特に問題なく生きられてたけどね』……などという言葉は飲み込んだ。問題なく生きられてはいたが、それは『おばあちゃん』と『黒い人』がこっそり守っていたからでもあるのだ。
「然様ですか。……其れ成らばもう、思い残す事は有りませぬ」
「ふーん」
生返事をする『黒い人』をそのままに、『呪う猫』は何か文言を唱え懐から取り出した紙を燃やした。
すると、紙は常盤色に燃えてゆく。
「あれ、それって……もう良いの?」
「もう、良いのです」
そう答えた『呪う猫』の髪は、綺麗な黒紫色に戻っている。ずるり、と髪が伸び地面に着いた。
「私には新しい目標ができた。奴に縛られていては達成ができぬ。是依り、全力を以て挑まなければならぬ……力は返していただきますよ。無論、向こうもそのつもりでしょうけれど」
「なんかその姿、久々に見たね」
前より少し髪が伸びたかな、と『黒い人』は思う。
「きっと、『命の息吹』も喜んでくれるよ」
「そう、だと宜しいのですがね」
「何を心配してるの。喜んでくれるに決まってるでしょう? ……頑張ってね」
そうして『黒い人』は『呪う猫』が姿を消すのを見送った。
「……まあ、彼等が問題なく来ればいいけど」
一人になった空間で、『黒い人』は小さく零す。
「っていうか。『呪う猫』ってば命を捧げる覚悟はあるっぽいし、そのつもりで活動しているけれど。ちゃんと、後の事も考えてるっぽいのが『呪う猫』らしいよねー」




