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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
二年目

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図書館でお勉強。

 手()げの鞄に勉強道具を詰め、薬術の魔女は街を歩く。休日の少し早い時間だからか人が少なく、空気が透き通っている感じがした。

 彼女待ち合わせに指定した国立の図書館は大体、魔術アカデミーと彼の仕事場である王城との中間地点にある。お互いに行きやすい場所だろう、と思ってのことだった。


「(……そういえば、あの人の家がどこにあるかなんて聞いてなかったな)」


あとで聞いてみよう、と思考を巡らせる。


 図書館内の勉強用に開けられた個別に区切られた場所に座り、薬術の魔女は教科書とノートを並べる。


「よし、今日はこれをちゃんとしよ」


 と、大まかな目標を決め、魔術師の男が現れるまでどこができてできていないのかを確認し、疑問点を書き出した。


「(……うん、このくらいやっておけば大体は大丈夫だと思う)」


 しばらくして、ノートから顔を上げ薬術の魔女は満足気に息を吐く。


「(…………)」


 近くに人の気配を感じ、横を見た魔女は口を尖らせた。


「(いつのまにか居た……)」


魔術師の男はすでに横に座り、幾つかの本を読んでいたのだ。足を組み、静かに(ページ)をめくる。

 なんだか(さま)になるな、と薬術の魔女がぼんやり見つめていると


「……おや、終わりましたか」


と、魔術師の男は本から視線を薬術の魔女の方へ向けた。


「ん、いつ来てたのかわからないけど、待たせちゃってごめんね」


「いえ。勉強熱心な事は素晴らしい事ですとも」


 薬術の魔女が申し訳なさそうに謝ると、魔術師の男は気にしなくて良いと軽く首を振った。


「其れで。本日は何を教えて欲しいのですか」


「えっと……」


 少し考え、今日ちゃんとやろうと思った箇所と、そこをまとめる際に引っかかった箇所を重点に教えてもらうことにした。


×


「一度、休憩を挟みましょうか」


 しばらくして、柔らかく微笑む魔術師の男に勉強をする手を止められた。


「休憩? あともうちょっとで分かりそうだから後でもいい?」


「駄目です。休息は、貴女の為にも今、取らねばなりません」


せっかくいい感じに気分が乗ってきたところなのに、と薬術の魔女が不満気に少し頬を膨らませるも、魔術師の男は休憩を行うよう勧めてくる。


「……んー、分かったよ」


 そこになんとなくで(かたく)なな意思を感じ、仕方ないと薬術の魔女は机から椅子を離し、伸びをした。


「あ、お昼だ」


 机の上から視線をずらしたおかげで時計に目が入り、勉強を始めてから大分時間が経っていた事に気付く。


×


「んー、やっぱり薬草は美味しい」


 もしゃもしゃ、と図書館の敷地内にある外のベンチで、お弁当を抱えながら薬術の魔女は薬草達に舌鼓をうつ。

 魔術アカデミーで見慣れていたからか、魔術師の男は彼女の弁当箱が開けた直後に薬草がわさっと箱から溢れるのを見ても、気にした様子は見せなかった。


「……随分と前からお伺いしたかったのですが」


「ん、なに?」


 横に並ぶ魔術師の男も、空間魔法でどこからともなく弁当を取り出す。


「他者の趣味嗜好にはあまり口出しは致しませんのですが、どうしても気になってしまいまして」


「うん」


頷くも、彼の出した弁当の大きさに少し視線が持っていかれた。何となく大きいように見えたからだ。


「何故、貴女の昼食には薬草が詰まって()られるので?」


驚きはしなかったものの、やはり薬草まみれの弁当は気になっていたらしい。


「んー。それは普通に、薬草が美味しいから」


「成程。……しかしまあ、彩りが緑一色で養分が変に偏っていそうですが」


「いいじゃん別にー。というか、薬草で足りない栄養はレトルト食品や冷凍食品で補ってるから」


「……然様ですか」


 微笑み、魔術師の男は自身の弁当に手をつける。


「うわ、きみのすっごく美味しそう。どこかで買ったの?」


 魔術師の男の手元を覗き込み、薬術の魔女は驚きの声を上げる。すごく綺麗に詰め込まれており、彩りも豊かだった。


「いいえ。自宅で作りましたが」


「つくった」


 魔術師の男の言葉を、おうむ返しする。


「はい。時間に余裕がありましたので」


「ふーん……」


 そのあと、魔術師の男の弁当の中身を少し分けてもらったり、彼の食べる量の多さに驚いたりしながら、昼休憩を終えた。


×


 そして、


「ふー、ひとまず今日の目標分は終わったー」


と、薬術の魔女は(図書館なので控えめに)伸びをした。


「今日は来てくれてありがとう」


 魔術師の男に改めて感謝を伝えると、


「いえ。他でもない婚約者の頼みですからね」


そう、彼は微笑む。


「……うん」


「どうしました?」


「なんでもないよ」


 『婚約者の頼み』という言い方になんとなく引っかかりを覚えたのだ。


×


「……むん」


 それから解散して自室に戻り、薬術の魔女は口を尖らせた。

 魔術師の男は薬術の魔女に付き合い、夕方まで勉強を見てくれた。帰る時に次に勉強を見てもらう日も約束し、先程、魔術アカデミーの寮の目の前まで送ってもらったのだ。

 そこはまあ良い。

 薬術の魔女は、ぽすん、とベッドの上に倒れ込む。そして、


「めっっちゃ、恥ずかしかった!」


 布団に向かって叫んだ。そして、布団を頭にかぶって(もだ)える。言葉を形成しない音を()き、大きな溜息を()いた。

 それは、薬草弁当のことである。


「(……あの人のお弁当、すっごく綺麗だった)」


それに、とてもおいしかった。……だというのに、自分のお弁当はただ薬草とレトルト食品を詰めただけのものだった。


「(んー……)」


 ちら、と一昨年の冬に貰った薬草を使った料理本に目を向ける。


「(……まあ、ちょっとぐらいは)」


今度の予定まで時間はあるし、と手を伸ばした。


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