知恵伐採4
次の『月の島国』は、どうやら天の神と縁の深い国らしい。隊商長がそう教えてくれた。
「『月の島国』は、『天の神の心臓の下にある国』だとされています。『霊の国』の反対ですね、位置的には」
「え、『霊の国』って」
たしか、紫色の葉の『基礎の樹木』が生えていた国だ。魔女の次男が管理を手伝わされていた国でもある。
聞き返す黒髪の若者に、隊商長は聞きたいことを察したようで言葉を続けた。
「『地の神の心臓の上にある国』だとされています。『地の国』が頭です」
「じゃあ、天の神の頭の下にある国もあるってこと?」
「そうですね。『天の国』と呼ばれる場所がありましたので」
黒髪の若者の疑問に、隊商長は頷く。
「すごい詳しいね」
「うちの旦那の故郷ですからね」
「旦那さん? そういえば『金の国』で出迎えてくれた人が居たね。その人?」
「その人です」
肯定する隊商長は、どこかうんざりした様子に見えた。きっと隊商長自身の伴侶のことを思い出しているのだろうと魔女には想像がついた。
「不思議な雰囲気の人でした」
「そうですか? ただの伴侶好きですよ。そんでもって変態の」
聖職者の若者が感想を零すと、隊商長は少し顔をしかめた。
「さすがに言い過ぎじゃない?」
「そうですかね。あんた達は分からないですかね、伴侶の異常さについては」
魔術使いの若者の言葉に隊商長はそう返し、「そちらはどうなんです」と言いたげに友人Bの方へ顔ごと視線を向ける。
「そうだねー。交魚当主の伴侶は、あんまり人前で出てこないからね。弱点になり得るから隠してるのか、仲悪いのを公開したくないから隠してるのか……とか言われてるけど。まあ、仲は悪くはないんじゃないかな」
「あんたは伴侶、探さないんですか」
「おー、回遊継ぐのは弟にしてるんだ。もうじき引退は考えてるよ。向こうには息子も娘も居るし、こっちには不都合はないね」
「そうですか」
どうやら友人Bは先のことも考えているようだ、と魔女は感心した。(※別に友人Bが後先を考えないタイプだとは言っていない)友人Bは現在はまだ回遊の首領だが、それを引退した後はどうなるつもりなのだろう。
孤児院を開いている友人Aや宮廷の図書館で働いている友人Cは、定年するまでその仕事を続けるのだろうと想像がつく。だが友人Bが船に乗っている以外の姿は、魔女には想像が難しいものだった。
それを察したのか、友人Bは笑いながら
「首領を引退するのは先の話だし、引退してもちゃんと暮らしていけるから安心しなよ」
と、魔女の頭をわしわしと撫でる。
急に出てきた友人C。
『薬術の魔女の宮廷医生活』(https://ncode.syosetu.com/n2390jk/)で主に登場します。友人Cの結婚式に呼ばれる程度の仲。




