理解伐採17
「……お前達も私を否定する気か!」
44番目は必死な形相で若者達を睨む。
「そんなつもりは無いけど……」
眉尻を下げ、黒髪の若者は呟いた。だが44番目には届いていない様子だ。
「みんなそうだ。この私よりも弱いくせに上から説教を垂れる」
幽鬼のようにゆらゆらと体を揺らし、落ち着きがない。
「『暁の君』だけが、この私を認めて下さったのだ。同じ孤独の者として……!」
あまりもの気迫に、若者達と魔女はどうなるのだろう、と様子を見ているだけしかできなかった。
「だから、樹木の育成も精いっぱいやった。部下達にも手伝わせたが……もうこの樹木に用はない。撤退だ」
『撤退』の言葉に、我に返った黒髪の若者が武器を構える。
「逃げる気!?」
「そうだとも。体力温存だ!」
叫び、衣服を翻した。
「お前達がここに来たのも、樹木を消すだろうことも全て、『暁の君』の計画通りだ!」
その言葉と共に消える44番目達。
「……どうする?」
「人質は無事に回収できましたし、樹木をどうにかすれば終わりじゃないですか?」
周囲を見た黒髪の若者に、聖職者の若者が返す。
「行ったら? こっちは人質の世話しとくから」
魔術使いの若者に言われ、魔女は樹木の実の気配がある方へ駆けだした。
「うん。ありがとう」
×
「……あった」
山頂の、開けたそこには黒色に輝く実があった。
やはり色は樹木の葉に似ているようだ。
黒色で、不思議な煌めきを持っている。
木の実は遥か高い場所にあった。
そのはずなのに、気付けば手の届く位置にある。
思わず、魔女はそれに手を伸ばした。
ぷち。
手のひらの上で木の実の千切れる音がして、手元に木の実のずっしりとした重みがかかる。
その瞬間、木の実が消えた。
「わ、」
樹木が震え出す。
魔女は急いで若者達の元に駆け出した。
×
周囲から、樹木の力が消えていくのを感じる。
「見て、葉っぱが!」
黒髪の若者の声に、周囲の植物が緑色に戻っていく様子を見る。
「これで、この国の異常は無くなるはずだよね?」
解放された人質達も、周囲を見回し異変は終わったのだと安堵していた。
その中に、次女は目的の人物を見つける。
「あ、居た」
次女は呟き、近付いた。
「貴方が、あたしを呼んだの?」
「そうですね、きっと。そのような気が致します」
呂色の髪色の男性は、穏やかに微笑んだ。
「じゃああたし達、このまま『金の国』に行くってことで良いの?」
「出国の手続きをしなければいけないですね」
「転居届も」
「んー、まあとにかく本格的に住む手続きは後にしよ。とりあえず『金の国』が合うかどうか確かめなきゃ。結構文化違うもんね」
「承知いたしました」
その様子を見て、次女も大丈夫そうだなと魔女は思ったのだった。




