理解伐採14
樹海に覆われた霊峰を登っていく。人が通れるように手入れがされている道が、いくつかあるようだった。若者達はそのうち一つを通る。
「この辺りはもっと魔力の気配が濃いね」
「なんだか、とても不気味な感じね……」
樹海の中で、黒髪の若者と魔術使いの若者が口を開く。
「樹木が山に生えていたなんて、結構特殊じゃない?」
「確かに。なんでだったのかな?」
「生えた場所は霊峰ですからね。そういう力に寄せられてしまったんじゃないですか?」
魔術使いの若者の言葉に、黒髪の若者が同意する。それに、聖職者の若者が考察を述べた。
だが、魔女は周囲の自然環境に興味を向けていた。
「こら、どこ行こうとしてるの」
「あ、ごめん」
魔術使いの若者に引っ張られ、明後日の方向に歩き掛けていた魔女は軽く謝る。
「使い魔がいた時はもうちょっと大人しかったのに」
「というか、なんでいなくなっちゃったの」
魔術使いの若者が愚痴り、黒髪の若者が魔女に問うた。
「なんか『野暮用を済ませに』って」
魔女が素直に答えると
「野暮用?」
「使い魔が?」
「契約前に何かあったんでしょうかね?」
若者達が口々に疑問を述べる。
「また会えるって言ってたから、あんまり気にしてないけど」
魔女は半ば呟くように言葉を溢した。
「そっか」
「……でも、どうやって合流するのかしらね」
「自分達は海を渡っていますからね」
黒髪の若者は納得した様子だったが、魔術使いの若者と聖職者の若者はそうでもない様子だ。
「海を越えて飛んでくるんじゃない?」
「そんな訳ないだろ」
呑気な黒髪の若者に、呆れ顔の白髪の若者。
「その『使い魔』が精霊だったら、もしかしたら『虚数世界』を越えてくるのかもね」
次女がふと口を挟む。
「『虚数世界』?」
魔女が聞き返すと、次女は軽く頷いた。
「そう。なんか世界の隙間らしいよ。『偽王国』の人達もそこにいるんじゃないか、って言われてる」
「仮にそこを越えるとして。それと海を渡るのは何か関係があるの?」
ふと湧いた疑問を、魔女は次女に問う。
「確か、『虚数世界』は好きな場所に出られるんだよ」
「好きな場所?」
「うん。それに『虚数世界』は、空間魔術を操る際にも利用している……と言われてるね。特に、移動系の術式の時に関わるそうだよ。……まあ。軽くその論文を読んだだけだから、詳しくは知らないけど」
「ふーん」
どうやら、虚数世界はこちらの世界と空間のつながり方が異なるらしい、と魔女は理解する。
「っていうか、その『虚数世界』に偽王国の連中がいるんだったらこっちの世界に干渉し放題なんじゃないの?」
「それに、どうやってそこに行くのかも考えないといけません」
説明を聞いた魔術使いの若者と聖職者の若者が、口を挟んだ。
「で、実際どうなの」
「……空間の正式名称は知らないが、変なところには居たな。天地が星に囲まれたような場所だ。……海と似たような気配がしていた」
ちら、と黒髪の若者が白髪の若者を見る。すると、ため息混じりながら答えてくれた。




