理解伐採13
「とりあえず、霊峰の方へ。そして魔力の気配が濃い場所に向かおう。偽王国の連中に邪魔されたら、蹴散らすだけだよ」
そう、黒髪の若者が目的の再確認をする。
「この格好だったら目立つかなぁ? 着替える?」
周囲を見回り、首を傾げる黒髪の若者。
どうやら馬車から見える周囲の人間達の格好は、少し違うのだ。呪猫を想起させるような、前合わせの服を着ている者が多い。
「認識阻害の魔術で十分でしょ。ほら、かけておくからこっちにきなさいよね」
魔術使いの若者が、周囲の若者達に声をかける。
「あ、わたしは魔道具があるから大丈夫だよ」
「あたしも、自分でできるからいいよ」
免除してもらう魔女と次女。
そして早速、霊峰の麓に降り立つ魔女と若者達。
隊商長は残り、馬車を守っておくそうだ。
「これが『樹海』ってやつかぁ」
と感心する黒髪の若者。霊峰の麓は事前に次女が告げた通り、普通の樹木に覆われている。
「すごく魔力が濃いわ」
魔術使いの若者は不安気だ。
「あまり良くない気配もしますね」
やや顔をしかめる聖職者の若者も、あまり樹海の良い感情を抱いていない。
「儀式の場で感じたものとは違うな」
と不思議そうな白髪の若者。
『此れは精霊の気配だろうよ』
するりと現れた呪猫当主は、涼し気だ。
「薄紫のねこちゃん」
『……霞色だ。いい加減、変える気はないのかな?』
「ん?」
『……いや、まあいいだろう。此の樹海では、死人が多く出る。迷った者、死にに訪れた者……等、理由は様々だ。その者共が、精霊を呼んでいるのだろうね』
「そうなんだ」
問いかける魔女に、呪猫当主は丁寧に答えてくれる。
「人のおばけは精霊を呼んでるの?」
『まあそうだ。霊は精霊の餌にもなるからね』
「霊が精霊の餌になるの?」
『そうだとも。魔獣は人間を食らうだろう。其れと同じだ』
「へぇー」
魔獣が人を襲うように、精霊の人を襲う。その理由は人の魂および霊を狙っているかららしい。
「ねこちゃんは『精霊に近い』とか言うけど、霊とか食べてないよ」
『其れは彼奴が元々人だからだ。お前も魔力のみを食らって生きては居らぬだろう、妖精の子よ』
「その『妖精の子』ってなに」
『其の儘の意味だが。森の主に育てられているのだろう? 彼等ないし彼女等は妖精だ』
「そうだったんだー」
『……ま、神の分け御霊の方が正しいが』
呪猫当主は小さく溢す。
『神も妖精も似たようなものだ。妖精の在り方に尊敬と畏怖が混ざり『神』と成る……まあ、呪猫の価値観ではだが。人も神と成るし、精霊も神には成る』
「ふーん」




