理解伐採9
「『命の息吹』がね、海の上に居るの」
とある場所で、『黒い人』は『呪う猫』に声をかける。
「はァ、『花の島国』へと向かうの成らば当然の話では?」
振り返り、やや怪訝な様子で『呪う猫』は言葉を返した。
「んまあそうなのだけれど。……この話、しとくかなぁ」
「……何です」
言いにくそうな『黒い人』の様子に不安を感じたのか、『呪う猫』は言葉を促す。
「あのね、『海』の魔獣はわたしの管轄じゃないの」
「……は?」
淡々と述べられる言葉に、『呪う猫』は聞き返す。
「勝手に生まれるの」
自身の告げた言葉を強調するように、『黒い人』は言葉を続けた。
「通常の魔獣と同じでは?」
「いいえ。通常の魔獣は、わたしの身体から勝手に生まれるけれど。海の魔獣は星の輝きを受けて、海水から生まれるの」
「……其れは、『天の神』が生み出している、と?」
「それも違う」
「……」
『呪う猫』は、『黒い人』の言葉の真意をくみ取ろうとしている。そして、ややあって『呪う猫』は口を開いた。
「……星海の神ですか?」
『黒い人』は目を細める。やはり、自力でその答えに辿り着けるのは流石『呪猫の次席』だ。
「……私に、何を望むのです」
面倒そうにしながらも真剣に、『呪う猫』は『黒い人』を見る。
「何も。ただ、海の上と星空の下だと『命の息吹』は危ないからねーって」
「然様でしたか。ですが、貴女が見守っているの成らば。大まかには問題はないのでは?」
「おや、ばれてた」
こっそりと『命の息吹』の方へ意識を割いていたのだが、気付かれていたようだ。それも当然か、とも思う。
「力を込めた石も渡しておりましたでしょう。彼女の運の良さ成らば大丈夫です」
「そっかー。信頼してる?」
「……計画の一つですからね。最悪、向こうの方も手助けして下さるでしょう」
「そんな照れちゃわないで。ちゃんと認めても良いよ?」
「照れて居りませぬ。事実を述べた迄」
「もー」
連れない『呪う猫』に、「もっと素直になれば良いのにー」と『黒い人』は口を尖らせた。
「計画は順調?」
「其れは当然に」
『黒い人』が問えば、淀みなく『呪う猫』から返答がある。
「気持ちを変えるつもりもない?」
「そうですね。そうとしか為らないでしょうし」
「うーん、そっかぁ」
ちょっと頑固だな、と『黒い人』は思う。
「『命の息吹』の事は大好きなのね?」
「……急に、何ですか」
「んー、大事なお話。ちゃんと答えて、正直に」
「……ええ、無論。大好きですよ……心の底から愛しております」
「おお、そこまで言ってくれるとは」
「……何です」
「いいえ。良いこと聞いちゃったなーって」
目を細める『黒い人』に『呪う猫』は頭が痛そうに息を吐いた。




