理解伐採6
船での道中の話は、次は白髪の若者の方へ移ろう。
「『精霊の偽王国』で、君は何をしてたの?」
黒髪の若者が、白髪の若者に問うた。『偽王国』について理解を深めようと思ってのことだろう。
「『言うつもりはない』って、言ってなかったかしら」
腕を組み、魔術使いの若者は零した。聖職者の若者も頷く。
「……少しくらいなら、話せなくもない」
「ほんと!?」
白髪の若者は、やや険しい表情をしながらもそう言った。黒髪の若者がぱぁっと表情を明るくし、立ち上がり話題に食い付く。それを鬱陶しそうにしながら(だがどこか嬉しそうにしつつ)、白髪の若者は黒髪の若者を着席させる。
「……嘘は言わない。言えないことはあると思うけど」
咳払いをし、白髪の若者は前置きをした。
「言えないことって?」
「だから言えないって言ってるだろ……まあ、契約とかで口封じされてることとか」
「あるの?」
「ちょっとくらいはある」
「そっか……無理しないでね」
黒髪の若者は気遣わしげに、白髪の若者を見る。
「正直言うと、『精霊の偽王国』関連で言えないこととかそんなにない」
「言えないこと無いの!? 言えることじゃなくて?」
思いもしない言葉に、黒髪の若者が突っ込みを入れる。拍子抜けだ。
「だってあいつら。……と違って、『契約書』作らなかった」
「誰?」
「……言えない」
「そこからなのかぁ」
言えない『誰か』は、他の偽王国の者と違い、きちんと白髪の若者と契約を交わしたのだろう。
「じゃあ聞くけど、『偽王国』で何してたの?」
「儀式の準備や、材料のかき集めだ」
単刀直入に黒髪の若者が問うと、簡潔に答えが返された。
「……人とか攫ってない?」
「自分はやってない。他がどうかは知らない」
その言い方で、他の偽王国の者がどうだったのか想像がついてしまう。「35番目とか結構酷いことやってたからね……」と、黒髪の若者は表情を曇らせる。
「そういえば、あなた」
今度は魔術使いの若者が、白髪の若者に声をかける。
「何だ」
「35番目と28番目、どこにやったの」
「偽王国の拠点に送り返した。『暁の君』の命令だったからな」
「そう」
それで魔術使いの若者の質問は終わったらしい。
「『暁の君』の命令を聞くのは、……の指示でもあった」
「その人から、酷いことはされませんでした?」
次は聖職者の若者が問う。
「特には。だが、命を助けてもらった……らしい」
「らしい?」
「記憶がない。ただ、全身が痛かったのを治してもらって、歩ける様にしてもらって、本を読ませてくれたのは確かだ」
それを聞き、「あなたを助けた人は、そこまで悪い人ではないのかもしれませんね……」と聖職者の若者は考え込む。
「結構覚えてるじゃん」
「覚えているだけだ」
黒髪の若者のツッコミに、白髪の若者はつん、と顔を逸らした。




