理解伐採4
「そういえばだけど」
友人Bからの説明が終わった後、黒髪の若者が魔女を見る。「なに?」と魔女は首を傾げる。
「君の正体ってやっぱり『魔女』?」
「ばれちゃったかー」
黒髪の若者の言葉を否定してもしょうがないので、魔女は素直に頷く。
まあ『栄光の樹木』のあたりであらかたばれていただろう、と思っていたので、今確認をされるとは思っていなかったのだ。
「人事中将さんや総司令官さんに気軽に挨拶出来て、医術に詳しい、ってなると『魔女』しかいないよねって」
『金の国』での出来事が決定打になったらしい。『結局自分のせいじゃねーかよー』と同僚の男に小突かれるイメージが湧いた。隊商長にちら、と視線を向けると、呆れている。
「『軍医中将』さんは、本当に息子だったんだね」
「んー、内緒でお願いね」
「分かった」
とりあえず秘匿するよう黒髪の若者と周囲の若者達に言っておいた。多分大丈夫。
「……ってことは『偽王侯の騎士』は……『海の上とは、斯様に不安を煽るものだったか』うわっ!?」
ぽん、と音を立てて呪猫当主が姿を現した。周囲を見回し、どこか警戒している様子だ。
「薄紫のねこちゃん」
『霞色だが』「霞色だね」
魔女の呟きに呪猫当主と次女の声が重なった。
「どうしたの」
『いや。海の不穏さが異様でね。……お前達には判からないかな?』
問う魔女に呪猫当主が軽く返す。『判らないか』と言われ、若者達は静かにして感覚を研ぎ澄ます様子を見せた。
「海が不穏?」
『私には大体は解ったが。まあ、通常は分からぬか』
魔女は『ぞわぞわする』とは思っていたが、それが『不穏』なのだろうか。そしてそれを『異様』とまで言っているので、どこかおかしいのだろうと魔女は察した。
「どう言う感じに『変』なの」
『あまりにも悪意の気配が強いだろう。……今は確か『地の神』の管轄の一つに海が入っている、のだったか。天の神は天と星と運を司る。地の神は地と命と海だ』
「そうなんだ」
『お前は『森の主』と親しい割に権能や役職には疎いようだね』
呪猫当主の声色は、責めるようなものではなく、ただ聞いているだけのようだ。
「だって、関係ないでしょ? わたしが大好きな『おばあちゃん』と『黒い人』には、権能なんてなくったってなにも問題はないよ」
『……成程。そう言う事か』
「なに?」
『いや、何。以前と比べ『森の主』が人間らしくなった、と感じていたが……合点がいったのだよ』
「ふーん」
どうやら、『おばあちゃん』と『黒い人』は魔女と関わる前と後で少し雰囲気が変わっていたらしい、と魔女は察した。




