理解の樹木伐採
「久しぶりに魚のところに来たなぁ」
魔女は周囲を見回し、呟く。
国内では滅多に嗅がない潮の香りに、波のさざめき。そして、水の底にある『黒き神』の気配。
「(……なんか『黒い人』が見てる?)」
あれ、と魔女は周囲を見回す。まるで側に居るかのような、そんな気がするのだ。だがいつものことか、と気にしない事にした。
「(海……なんだか、ぞわぞわする)」
儀式の場で感じたような不思議な寒気を覚え、魔女は近くに居た隊商長にくっつく。
「どうしたんですか」
「なんか、嫌な感じがする」
「あー、分かります。月のない星空の下を飛ぶような不安感がありますよね」
うんうん、と頷き、隊商長は魔女の頭を少し撫でた。安心させるような、優しい手つきだ。
「月のない星空の下で航海すると、もっと最悪だよ」
そう、横に居た友人Bはからからと笑う。
船に視線を向けると、外国の荷物を運び出し国内の荷物を船に積んでいた。魔術で運ぶものと手作業で積むもの、魔導機を使うものなど、様々だ。
船はとても大きい。見上げるほどに高く、端と端が同時に見られないほどに長い。材質はおそらく金属なのだろう。
「おっきいね、船」
大きな金属の塊が水に浮いているのが不思議だが、浮力が働いているのだろうと見当は付いた。底に穴さえ空かなければ、きっと大丈夫なのだろう。
「あ、そうだ。酔い止めの魔術とか教えとかなきゃ。知らないでしょ?」
思い出した様子で、友人Bは魔女と隊商長に視線を向けた。
「え、そんなのあるの?」
「あるんだよ。ほら、やっぱり海の揺れって結構不気味だからね。酔っちゃう人が多いんだ。別に海に吐いても良いんだけどさ、魔獣とか呼ばれたら困るんだよ」
魔女があげた疑問の声に、友人Bは頷く。そして、酔い止めの魔術が必要な理由を教えてくれた。
それから、友人Bは魔女と隊商長に酔い止めの魔術を教える。そのあと「あの子達にも教えとかなきゃ」と、若者達の方へと向かって行った。
ふと魔女は隊商長の方を見る。
「そういえばだけど、一緒に国出て大丈夫?」
「ええ、なんとか」
隊商長はややうんざりした様子で頷いた。
「旦那が泣きついて大変だったんですよ、マジで」
そうだろうな、と魔女は頷く。呪猫当主と嫂を引き剥がすのも大変だった。次女の根気強い説得と、呪猫当主の言葉でなんとか引き剥がしたのだ。
「でもこっちも仕事ですからね」
「無論、命がある限りは最後まで付き合います」と隊商長はきっぱりと言い切ったのだった。




