『奈落』7
それから数日後。
武器のメンテナンスが終わったらしく、若者達は武器を受け取りに宮廷へ向かっていった。呪猫当主の札は次女が預かっているので、完全に巨猫と二人きりだ。
鍵を閉めた宿の部屋で、魔女は巨猫に人の姿に戻るようお願いする。そうすれば、彼は人の姿になってくれ、魔女の負担にならないよう寝台の縁に腰掛けた。
「ねぇ、ねこちゃん。これからもずっと一緒にいてくれるよね」
そう言いつつ、魔女は彼の横に座る。なぜだか、魔女は不安だったのだ。
『其れは無論。私は貴女以外と添い遂げる予定は御座いませぬので』
魔女の髪をひと房手に取りつつ、彼は答える。これは嘘ではない。そう魔女は直感した。だが実際のところ、交わした契約のお陰で呪猫当主と一蓮托生となっている。
『(……契約。そろそろアレを如何にかせねばなりませんねぇ)』
魔女の髪を愛でつつ、思考していた。
『(まあ。……如何にかせねばならぬので、如何にか致す迄。其れだけの話)』
「どうしたの?」
首を傾げる魔女に『何も、御座いませぬ』と彼は薄く笑う。それが嘘だと分かり、
「ふーん。わたしに隠しごと?」
魔女は少し口を尖らせた。
徐に彼は立つ。はし、と魔女はその手を掴んだ。
『……何か?』
「え」
見下ろす彼の表情は優しい。それがなんだか急に悲しく、怖くなる。きゅう、と胸が締め付けられた。
「……どこ、行くの」
『野暮用を、済ませに』
直後、彼の格好が黒い衣装に変わった。それは『偽王国』の服によく似ている。
『では。またお会いいたしましょう、小娘。……また、逢えますから』
彼の手を掴んでいた魔女の手に軽く口づけを落とした途端に、彼は消えた。
「ねこちゃん!」
使役のネックレスとの繋がりが途絶えたのが判る。魔女の命令でも彼は戻ってこないのだ。
×
それから、魔女はその3、その1と合流する。
泣き顔の魔女にその3、その1が驚き、魔女は『ねこちゃん』と別れてしまったことをやや涙ぐみながら話した。
慰めるその3、「どこにいったんだよ、そいつ」と聞くその1。
「用事があるって言ってた」
行先を詳しくは教えてくれなかった、と魔女は呟く。
「でも『また逢える』って。……ずっと一緒に居たいのに」
自身の服の裾を掴んで、魔女はうつむいた。
「彼にはやる事があるんでしょ? だったら仕方ないよ。我慢してあげなよ」
「でも再会したのつい最近だったんだよ。もうちょっと居ても良かったじゃん」
どうやらその3は彼の味方らしい、と魔女は頬を膨らましその3を睨む。




