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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
一年目

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巡廻


 婚約者の薬術の魔女は今度もまた、冬季休暇と同様に夏季休暇は生家へ戻ったようだ。今回は、直接彼女から聞いた。


「だから、また会えるのは夏休み明けだね」


 と、薬術の魔女に告げられた際になぜか、魔術師の男は胸が痛んだ。

 来年以降は視察として魔術アカデミー内で会うことはない。それは分かっているはずなのに、彼女はそう告げる。……それとも、彼女は外でも会おうと思ってくれるのだろうか。


「そうですね」


 ゆったりと頷き、魔術師の男は薄く微笑む。

 その後、薬術の魔女は試験の結果を自慢気に見せ、


「ありがとう。きみのおかげだよ」


と、魔術師の男に感謝を述べた。


「私は、貴女に問われた事に返答、(そして)解説をした(まで)()れを知識等として紙に書き出し評価されたのは貴女の実力です」


 そう、いつものように魔術師の男が返すと


「それでも、やっぱりきみのおかげだよ。自己満足のお礼だから気にしないで」


薬術の魔女は困ったように笑う。


×


 宮廷に用意された仕事場で、魔術師の男は普段通り魔術の研究という仕事と、国の未来の先行きを見る。見たところであまり変わらないが。


「(……矢張り、あまり気に食わぬ)」


 仕事の最中だと言うのに、集中が切れる。余計なことが頭に過ぎる。婚約者の、薬術の魔女のことが。


「(………何かが、気に入らぬ)」


 彼女の、毅然とした態度が特に、である。無意識に握り締めていた手を開き、気を落ち着かせるよう小さく息を吐く。気が散るくらいならば一層のこと、逆に考えてやろうかと魔術師の男は仕事の手を止めた。

 彼女はあの見目の良さと明るい性格からか、周囲から好意を持たれ易い。

 そして薬術の魔女自身はほとんど全ての相手に、平等で優しい態度を示す。だがその理由は、彼女自身が本気で周囲の態度に何も感じていないからだ。彼女に近しい者は既に察しているだろう。


「(……()れでも)」


 素直な彼女を好ましく思い、側に居たいと願う者のなんと多いことか。

 魔術師の男は自身が随分と捻くれているのは理解しているが、彼女はあまりにも純粋無垢で


「(…………私には、不釣り合い過ぎる)」


穢れ切った自身に対する劣等感が燻ってしまう。

 薬術の魔女は、恐らく彼女なりには周囲を見て居るつもりなのだろうが、細かい感情の動き等には鈍い。他より繋がりが深い筈の友人達に対してもそうである。


「(成らば)」


 彼女は魔術師の男自身のことなど間違っても直視するはずも無いだろう、と言い聞かせた。


「……(……彼女は。私等と云う存在を唯、()()()()()()だと認識しているだけで)」


『それがきみなんだね』などと、云った


「(『私を認めたかのような』()れは、(ただ)の気紛れだ)」


 深く息を吐き、余計な思考はそこで終いにする。何故だか、非常に気分が悪くなった。


「(何故、斯様に感情を揺さぶられるのか)」


×


 夏の日差しが(かげ)りを見せ始める頃、宮廷では豊穣の儀が行われる。

 豊穣の儀はその名のとおりに豊穣を願い、冬への備えを神と約束する儀式だ。

 そのようなことをしなくとも、確かな雨天と日差しが有れば問題は無い、と周囲から思われがちな儀式であるが、無論、他の儀式と共に大事な儀式で、これを欠かすと不思議と実が実らなくなる。

 儀式の最中は余計な事も考えないで済んだ。それだけが、唯一の救いのように思えた。

 集中し、瞑想し、文言をただ無心で唱え、国の安寧を祈り、国の防護の結界を張る。


 そうして過ごすうちに益々(ますます)日差しは(かげ)りを強め、再び秋が戻るのだ。


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