『奈落』5
次は『偽王国』が儀式を行った場所に向かうことになった。
樹木に向かった日の夜、その3から「『偽王国』の連中が使ってたらしい場所や儀式の場の見学に行くんだけど、もし良かったら一緒に行かない?」と誘いがあったのだ。
それを若者達に問うたところ、(白髪の若者以外の)全員が興味を持った。白髪の若者は「見ても何も面白いことないと思う」と言う。
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「本来は公開していないけれど、『樹木の破壊者には特別に見せてあげようと言う話になったんだ」
と、宮廷の前で待っていた総司令官がはにかみながら告げた。どうやら王代理からの指示らしい。魔女が「あっ、そーしれー」と言った際に巨猫から尻尾で背中を叩かれた。
案内は総司令官がやってくれるようだ。「大事なお客さんだからね」と彼は言っていた。きっとこれも王代理の指示なのだろう。
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儀式の場はなんだか怪しく、おどろおどろしい雰囲気があった。
『……可成り時が経った筈だと言うのに、未だ気配が残っておりますねぇ』
どこか呆れた様子で巨猫が感嘆する。
「何の気配?」
「すごくぞわぞわする」と腕を摩りつつ魔女が巨猫に問うた。すると『『熱』の気配です』と巨猫はさらりと答える。なんというか、ものすごく悪意が強いのだ。
それから儀式の場を色々と見て回るうちに、その3が記憶の一部を取り戻したらしい。
それと同時にその1も聖剣を取り戻した。急にその1の手元が光ったかと思ったら透き通った剣が現れたのだ。
「持ってた欠片が反応したのかもね」とその3が言っていた。
それから各々で気になった箇所を回る事にする。魔女と巨猫が二人きりになった時、巨猫が人の姿になった。
虹彩が赤色に侵食され髪の根本が黒紫色の短髪なのが、どうも見慣れない。
『矢張り、獣の姿は肩が凝りますな』
面倒そうに彼はため息を吐く。
「なんでそんな髪なの」
『使うて居ります故』
彼の色や髪の長さについて文句を言うと、彼は淀み無く答えた。使っている、と言うことは今も何かしているのだろうか、と魔女は思考するがよくはわからない。
「じゃあ、なんで精霊語なの?」
『用事為るに越した事は有りませんので』
「ふーん」
発している言葉が人のものでないことを指摘すると、堅実な返答があった。一応、これでも彼は追われている身であると自覚はあるらしい。
「ねこちゃん、次女の結婚相手探すんだって」
彼に近付き、寄りかかってみる。温かくて、横に居るのだと実感できて、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。
『其の様ですね。……まあ、些か遅いとも言えるが』
「遅いかな?」
『はい。世継ぎを残すの成らば20代で探し、子を産み育てる処迄せねば』
淡々と述べられる言葉に、魔女は「(じゃあどういうつもりで『伴侶を探して欲しい』って言ったんだろう)」と内心で首を傾げた。




