『奈落』3
「次女の伴侶……って」
困惑する魔女(と巨猫)に嫂は何も言わずに下がる。代わりに魔女の次女が前に出る。
「『花の島国』に居るらしいから、探してほしいって話なんだけど」
「はえ」
どうやら、『占星術で探したら花の島国に居る』と結果が出たらしい。『花の島国』は、魔女と若者達が次に向かう巨大樹木の生えた国だ。
「ってことだから、旅にちょっとだけ同行するよーって」
「なるほど」
魔女は頷く。呪猫の当主の伴侶直々の『お願い』と当事者だから、嫂と次女が直接来たらしい。(あと呪猫当主の魂に会いに来たというのもあるだろうが)
「それわたし達に言う必要あった?」
「驚かしちゃうと思って」
「驚かしちゃうと、おかーさんは余計なことしか言わなそうだと思ったし」と言う次女は危機管理がちゃんとしてるな、と魔女(と巨猫)は思った。魔女は自由に余計な情報を喋ってしまいがちだからである。
「そういえば長女は? 魔術師として呪猫に居なかったっけ」
ついでに長女のことを思い出したので次女に聞いてみた。
「うん。おねーちゃんは使い魔の鳥と一緒にゆっくりしてる。でも、もうすぐ旅に出るとか何とか言ってた」
「そうなの?」
「詳しくは教えてくれなかったよ。だから詳細は知らない」
そう、次女は簡単に教えてくれたのだ。
「おにーちゃんは軍医中将のお仕事で忙しいし、捕まってない方の弟はこの国にいるっぽいけど会えるか分かんない」
「そっか、ありがとう」
長男には大変な仕事をさせてしまったな、という自覚はある。自分が元に戻ったらちゃんとお詫びとお礼をしなきゃな、と魔女は思うのだった。
「あ、そーだ。呪猫当主にかかった呪いの解析はまだ時間がかかりそうだって」
「従兄弟達とかが一生懸命解いてる」と次女は魔女(と呪猫当主)に告げる。
「少なくともあと一年はかかるよね。だから、もうちょっと一緒に旅する感じになりそう」
「そうなんだ」
「ってか、今もかけ続けてるっぽいんだよね」
「それは言われても、よくわかんない」
「うん、まあそうだよね。じゃあいいや……っていうか、おとーさんどこ行っちゃったのかな。占いによると生きてるのは確かなんだけど」
言われて、魔女は巨猫の方を一瞬見そうになった。(次女は巨猫が父親であるとは気付いていない)
「というか、おとーさんの事。思い出したんだね、おかーさん。おにーちゃんから聞いたけど」
「う、うん。まあね……」
次女は不思議そうに魔女を見る。
「何かあった?」
「えっと、ショック療法……みたいな」
「ふーん。まあ思い出して周囲に迷惑かけてないんならいいよ」
「うん」
それから少し話をして、一旦呪猫当主を次女に預けて魔女(と巨猫)は若者達と合流するのだった。




