『奈落』
『金の国』に入った途端、若者達(と巨猫、その3、その1)は魔力の圧力を感じる。(ただ、魔女は鈍くて気づかなかった様だった。呑気に水筒に入った薬草水を飲んでいる。)それを見、隊商長は呆れた様子で小さく息を吐いた。
客車が止まり、荷を下ろす場所に着いたのだと魔女は理解する。「大丈夫です、降りてください」と隊商長に勧められ、全員が降りる。
「何やってんですか。圧力かけても何もならないですよ」
客車を降り、隊商長が呆れた声を上げる。
「よお。元気だったか」
そこに同僚の男が居た。
「あ、久しぶりー」
思わず声を上げた魔女に『テメェ今の立場忘れてんじゃねーよ』の顔を一瞬した後、「あんた達が『樹木の破壊者』だな? 話は聞いてるよ」と柔らかい表情を作る。
それから同僚の男は、若者(と魔女)達が宿泊する場所を紹介してくれた。曰く、「隊商の都合でこの国に留まってもらう訳だから、通鳥が面倒を見るのは当然だろ?」と言うことらしい。若者達は旅に出る折に自身の住居は売り払っていたらしいので、喜んでいた。(魔女と巨猫の場合は巨猫を家に帰さないということ、『軍医中将』の家に魔女を返すわけにいかない、と言うことらしい)
「客車のメンテナンスが終わるまで、ゆっくりしな。誰もがあんた達を歓迎してる」
新たに加わった『偽王国の死神』については、若者達と同じ宿に放り込んで見ないふりをするらしい。
その3とその1は『てきとうに宿を取って疲れを取った後に勝手に旅に出る』と告げた。同行はここまでらしい。「大丈夫。月の先で待ってるから」と、その3が告げていたのでまた会えるのだろう。
「……で。お前は奇妙なモンを使い魔にしているようだな」
どうにか若者達と離れた後、同僚の男は顔をしかめて魔女の横に居座る巨猫に視線を向ける。
「うん、ねこちゃん。荒野で拾ったの」
「……そうかよ」
「かわいーでしょ」と巨猫を撫でる魔女に「チッ。手ぇ出せねーじゃねぇかよ」と同僚の男は小さく吐き捨てる。
「お前のことだから色々分かっているだろうが。あっちの方が面倒だからな」
と、巨猫を睨む。「俺は伴侶に止められているから手は出さねーけど、赦しはしねーからな。全部が終わった時は覚悟しておけよ」
「あっち、ってどっち?」
首を傾げる魔女に「呪猫だよ」と、同僚の男は遠くを指差した。そちらの方向から何かが近付いてくる気配がする。
「巨猫の義姉だよ。どんまい」
顔が札に覆われている獣に引かれた、牛車がやってきた。




