慈悲伐採19
一旦、隊商の荷車の調整で『金の国』に行くことになり黒髪の若者は故郷に帰れるからと嬉しそうにしていた。ついでにいうと『偽王国の死神』も同郷らしい。
同じく『金の国』へ一足先に向かう枢機卿は「私、転移門を使って帰りますね」と総合組合の方へ向かって行った。
「今更ですけど、アンタも転移門の資格持ってるんじゃないんすか」
隊商長は魔女に問う。
「いいの。みんなと旅するのも悪くないかもって思ってるから」
だが魔女は隊商での旅も楽しんでいるので、転移門はあまり使わないのだと答えた。
「ねこちゃんはそのままで入国して大丈夫かなぁ?」
「問題ないと思いますよ。よほど感知能力が高くなければ」
曰く、通常の人間や魔術使いなら気付かない程度の偽装ができているらしい。だが「まー、問題しかない気がしますけど」と隊商長は小さくぼやく。
「なに?」
「ええ、大丈夫です。入国はできます」
魔女が聞き返すと、誤魔化す様に隊商長は答えた。
「……なーんかその後が大変って感じ?」
「やらかした内容考えてみてくださいよ」
「……国の分断とか?」
「それやったのは、あくまで偽王国です」
声を落とし、隊商長は魔女に近付く。なんだろう、と思いながら魔女も身を寄せた。ちなみに若者達は『偽王国の死神』と何やら話をしている。
「(呪いの施行と客車の依頼で間接的に)呪猫と通鳥の当主と伴侶を遠ざけた事に問題が」
「あ、超個人的なやつだ」
「超個人的なやつです。まあ、伴侶達も一応加護かかってるんで色々と理解はしているでしょうけれど……理解と納得は別ってやつでしょうね」
「大丈夫かな……」
「死にはしないでしょう」
「わー……」
少し心配になってきた。心なしか巨猫が震えている気がする。
「なんでうちの国って『金の国』っていうの?」
会話を終えたらしい黒髪の若者が隊商長に問うた。
「『完璧』の意だそうですよ。『金』には完全などの意味があります。錬金術で作り出そうとする物も『金』でしょう? 『神々の約束で守られた完璧の国』だから、『金の国』です」
隊商長は丁寧に答えてくれる。それをよそに、魔女は思い出したことを巨猫に話した。
「錬金術と言えば。あの子、放浪の錬金術師とかやってるみたいだよ」
『然様ですか』
「なんか女の子と一緒に居た」
『然様ですか』
「そっちは興味ないんだ。……そこの子達の武器を作ったんだよ」
『其れは。腕を上げましたね』
子供達のことを思い出し、国で会えたらいいなぁと思う魔女だった。




