慈悲伐採17
突然のことで若者達が呆然としている魔女に『『実』を回収なさい。此の儘では樹木が育ち切りますよ』と巨猫が囁き、魔女は『実』を探しにその場を離れる。
「……あった」
最上階の奥の庭、開けたそこには青色に輝く実があった。
やはり色は樹木の葉に似ているようだ。
青色で、不思議な煌めきを持っている。
木の実は遥か高い場所にあった。
そのはずなのに、気付けば手の届く位置にある。
思わず、魔女はそれに手を伸ばした。
ぷち。
手のひらの上で木の実の千切れる音がして、手元に木の実のずっしりとした重みがかかる。
その瞬間、木の実が消えた。
「わ、」
樹木が震え出す。
魔女は急いで若者達の元に駆け出した。
×
周囲から、樹木の力が消えていくのを感じる。
その最中を、枢機卿の魔術により10層の外に出た。
外には消えゆく樹木や壁をみ、嘆く国民達が居た。
「本当に、この巨大樹木って壊して良いものなのかしら」
ぽつり、と魔術使いの若者が呟く。見ると、魔術使いの若者と聖職者の若者が、不安そうに消えゆく樹木を見ていた。
黒髪の若者は「壊していいものだよ。だって、人が閉じ込められているし、元々は世界になかったものなんだから」と、他の若者達を励ましていた。
「樹木を失った世界で、アイツらは自分で考える力を取り戻さなきゃいけねぇんだよ」
そうその1もなんかカッコつけて言っている。その3が「木刀だからあんまり格好つかないね」と茶化していた。
「そうですね。人は『考える葦』だと、どこか転生者の手記にも書かれてありました。葦とは弱々しいものの例えだそうです」
と、枢機卿がその1に同意する。
いまだに人々は支配の象徴だった『慈悲の王』が居なくなったことにより混乱している。その中、立ち上がる者が居た。
「おや、これは僥倖です。彼は確か元王族の方ですよ」
そう枢機卿が教えてくれる。
「あ、最下層で会った人だ」
黒髪の若者が呟く。どうやら最下層で人々に物を教えていた人が、王族の者だったらしい。
「アンタの言った通りに、一応『種』は蒔いといたからな。俺の仕事は終わりだ」
その1は元王族の者に声をかけた。その1の『やること』とは元王族の者からの頼まれごとだったらしい。それに対し「とても助かったよ」と元王族の者は礼を述べている。
「君達も、ありがとう。この国の壁を破壊して、『慈悲の王』を退かしてくれたのだろう」
「何も礼ができなくてすまない」と元王族の者は申し訳なさそうにしていたが、若者達は気にしていない様だ。
「周囲から望まれたら再び王族へと戻るけれど、今は国を立て直すのが先だ」
そう、元王族の者は言った。




