慈悲伐採16
それから、10層で枢機卿と合流する。10層は礼拝堂のような場所で、奥に垂れ幕らしき布のかかった立方体がある。案内人らしき者達が周囲に居た。その1が言うにはどうやら幹部らしい。
「凡そ、想定通り。ああ矢張り、見通す目はかなり正確の様です。助かります」
情報交換をすると、枢機卿は微笑する。
「私達を10層に集めたのは、処分するおつもりでしたか」
穏やかな様子のまま、枢機卿は周囲の者に問いかけた。
「殺気が漏れておりますよ」
その言葉に一瞬動揺しつつも「悪く思うな、『慈悲の王』様の命令だ」と、幹部達は取り出した武器を向ける。どうやら『樹木の破壊者』と『勇者様』、『教の国』に干渉する枢機卿を一気に仕留められる機会だと思われていたらしい。
「やめなさい、玉座の前ですわよ」
唐突に声がかかる。声の方を向くと、立方体にかかっていた垂れ幕が上がるところだ。
そこには王冠を戴き玉座に座し王の雄姿があった。
「きみは、誰」
険しい表情で黒髪の若者が問いかける。
「私は慈悲の大樹の守護の役を司る、『精霊の偽王国』の28番目」
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「皆を平等にして何が悪いの?」
28番目は主張する。
「努力した者が報われないなんて、おかしいよ」
だが、黒髪の若者は否定した。
「報われているでしょう? 上位の階層へ上がれて、下位の者に施しを与えられるのだから」
『よくわからない』と言いたげな28番目に、
「上に行くほど搾取される、下の者には知識を与えられない。娯楽を知らない。家畜のようである。そんな世界が『報われてる』だと? ふざけるのも大概にしろよ」
「どんなに働いても搾取され、低い『幸せ』だけが分配されるなぞ、人間の家畜化だとしか思えねぇ」と、その1は吐き捨てる。
「休むと誰かに密告されて何処かへと連れていかれ、帰ってこない。病気になった者も何処かへ連れていかれる。家族と階層が分かれてしまい、もう何年も会っていない。……そんな話も山ほど聞いた」
その1が訴えても「それが何かしら」と28番目は気にも留めない。だが。
「あなた、王族ではないし、過去に犯した犯罪で指名手配もされておりましたよね。……慈悲の王に相応しくないのでは?」
そう枢機卿が告げた途端に、28番目は激昂する。その変わり様は凄まじく、魔女は思わず巨猫にしがみついた。上品そうな様は形をひそめ、暴力的だった。
メキリ、と聞いたことのある音が鳴り、樹木が咲き始める。
そして28番目が木の力を根こそぎ使おうとした所、突如現れた『偽王国の死神』に気絶させられどこかへと魔術で飛ばされて姿を消した。




