慈悲伐採15
5層に来ると、確かに総合組合の建物があった。他にも飲食店らしきものが見られる様になる。6層以下は礼拝堂と住居、露店しか見られなかったので、不思議な感じであった。
上の階層ほど、より苦しい搾取が行われている。そのはずだが、傍目にはそう見えなかった。まるで『何事もありません』と幸せそうだ。
「表立って『辛いです』」って顔する訳ねぇだろ」
その1がケッと唾を吐く。そのため、若者達は気配を消して人通りの少ない場所などに向かうことにした。
実際、その1の指摘通りに裏通りなどには体調が悪そうな者がたまに見られる。だが話しかけると、「下層のことを見れば平気だ」と言う者が多い。可哀想な下層のために自分達の慈悲を施すのだと。
それから複数の階層を渡るもどうやら、上の階層の者もこの国をどうにかするつもりがない。どこか、諦めている様な気配があった。
「国の奴らはもう牙が折られている。反感の意思なんざ持っちゃいねぇよ」
その1はため息を吐く。
前は反対運動などがあったらしいが、『アスタロト』の強力な奇跡の力の前では誰一人歯が立たなかったという。
前の統治者は殺されてしまったそうだ。
「見せしめのような殺され方だったらしい」
そう呟くその1に
「殺人って駄目じゃないの?」
と黒髪の若者は問う。
「ここの宗教は『聖抗』が許されてる。『己の尊厳を傷つけられた時は、己のすべてを尽くして抗っても良い』ってな」
質問に対しその1は顔をしかめながらも答えた。どこか痛ましそうな表情だ。
「その結果、相手が死ぬのは仕方がねぇとされる。正当防衛の延長上みたいなもんだな」
思わぬ言葉に若者達は言葉を失う。
「でも、見せしめのような殺され方だったんでしょ?」
魔術使いの若者が問うと、
「それでもだ。アスタロトが『聖抗だ』と言ったならばそうなる」
話によると、後継者は軒並み無力化されているそうだ。
「樹木を破壊したところで、この国が再建できるか怪しい」
とその1は言い切る。怯む魔術使いの若者や聖職者の若者を見、
「それでも、樹木は壊さなきゃ」
と魔女は言う。
「そいつらのために、か?」
その1が問うと「違う」と黒髪の若者が返す。
「僕達のために、だ。……最初から、僕達は自分達のために、樹木を壊す旅をしてるんだ」
黒髪の若者は真っ直ぐにその1を見た。
「樹木を壊した後の後始末はどうすんだ?」
「国の人達に立ち上がってもらわなきゃ」
黒髪の若者の言葉に「若いな」とその1は息を吐く。
「考えなしだった君が後の話するなんてね」
その3が少しにやけながらその1を見た。
「うるせぇ。これでも成長してんだよ」
その3に悪態を吐いたのち、ガリガリと雑に頭を掻き
「一応、この国が再度立ち上がるための準備はしてる。お前らが樹木を壊しても大丈夫だよ」
「試して悪かった」そう答える。




