慈悲伐採14
それから若者達と魔女は階層を移動する。そしていつのまにか勇者もついてきていた。
そして、その1の言葉は正しかったようだと、若者達と魔女は察する。階層が上がるほど、人々はどこか苦しそうなのだ。魔女の分析では精神的負担、である。
どうやら各階層で最低限の義務があり、それを怠ると一つ下の下層へ落とされるらしい。それを避けるために人々は気を付け日々を暮らしているそうだ。
この国の人々は下の層に落とされることを一番のタブーとしており、人々は必死になって下の階に落とされないように生活している。また、誰も具体的に口には出さないが、最下層および自身達の下の層の者を見下しているように感じられる。
国民達と関わる中で、さりげなく国について聞いた。だが国民達は「戒律は厳しいけど」と小さな不満を抱けど、国を転覆させるつもりは毛頭もない様子だ。若者達は絶句していた。
外界の話をしても「興味がない」「『慈悲の王』にお会いしたい」などの返答しかないのだ。
ある意味理想郷なのだ、と魔女も若者達も察する。だが巨猫は別のことに興味を持っている様子だった。
「どうしたの」
『あの者は元の国の解釈を間違えたようだと思いまして』
「解釈を間違えた?」
『本来は強きが弱きを助け、弱きは強きに尽くす……と言うものがかなり正しい解釈なのですが。あの者は、強きのために弱きは尽くすべき……と解釈したようだ、と』
「片方しか取り入れてないってこと?」
『然様です。其れに、強き者はただ一人だと』
「へー」
巨猫の話によると、ここまで厳重に管理され分かれていなかったが元の国も似たようなものだったという。
考えなくても食事は毎日与えられるし、お風呂にも入れてもらえる。階層を上がればより詳しい勉強も教えてくれる。そういう、平等な国。
『本来は下の層の者を守る為に上層の者が尽力し、下層の者は上層に感謝し祈る教え。下層の存在に感謝こそすれ見下す等、一部を除いて禁忌。其の解釈も間違えた御様子ですなァ』
くつくつと笑う巨猫の脇腹を、「ちょっと、ねこちゃん」魔女は小突く。それを「仲いいね」と黒髪の若者はほのぼのとして見ていた。少し不本意である。
『いや。敢えて、そう解釈したのでしょうな』
巨猫は目を細めた。
「なんで、ねこちゃんはそう思うの」
こそ、と魔女は巨猫にくっ付き問いかける。
『いえいえ。是は私の考察。態々口に出す様なものでは』
どこかにやにやと笑う巨猫に、魔女は眉を寄せた。
「いいから教える」
『……まァ、良いでしょう。効率良く『願い』を集める為、ですよ』
「『願い』……? あ、もしかして樹木?」
『そうです。必死な『生きたい、楽に暮らしたい、幸せになりたい』……等。願いを集め、絞り出し、樹木を育てて居る』
「そっか……」
まるで胡麻油の様な集め方だ、と魔女は眉尻を下げる。




