慈悲伐採13
『勇者』の活動を手伝う、とは言っても内容は街の者の手助けをすれば良いらしい。それを聞き、若者達は大張り切りで請け負った。
それから、枢機卿から連絡が入る。
『もうじき視察が終わるのですが、貴方方はどう過ごされるか決めておりますか』
連絡を受け取ったのは聖職者の若者だった。「どうします?」聖職者の若者は他の若者達と魔女、その3に問いかける。
『私は、視察のために層を移動致します。貴方方も移動できるよう手配をしておきますので、10層で会いましょう』
そう枢機卿が提案したので、若者達と魔女とその3は提案に乗る事にした。その1はどうするかとその3が問うと
「俺は移動の術式で、国を区切る壁を超えることができる。つまり、自由に階層の行き来ができるんだ」
「術式っつーか『スキル』ってやつなんだが」と言った。
「『スキル』!? 持ってるんですか?」
「なんだお前、スキル持ってねぇの?」
「すっかりないものだと……」
「鍛えねぇと発現しねぇんだよ。努力不足か既に発現してるが無自覚かの二択だな」
「そうなんだ……どうやって確認するの? 『ステータスオープン』?」
「んなアホみてぇな文言じゃあ出ねぇよ。そもそもステータスなんてものねぇし」
何やら黒髪の若者とその1が話している。魔術使いの若者が腕を組み、やや不機嫌そうに顔をしかめる。
「壁のすり抜けってどうやるのよ」
「通常はできねぇ。バグ技みたいなもんだ。RTAのついでに貰った」
「ばぐ?」「……『あーるてぃーえー』とは何ですか?」首を傾げる魔術使いの若者と聖職者の若者に「すごい特殊な技ってことだよ」と黒髪の若者が補足を入れる。
「周囲からは『そういう奇跡を貰った者』と思われている。役人に見つかったらやばいが、生憎役人は俺の顔を知らねぇ。あるいは、見逃してくれている」
その1は『壁のすり抜け』について、そう言葉を締めた。
「ここの奴らは気付いてねぇが、ここは人々の祈りが搾取される世界だ。弱き者こそ優位で、才能は潰され有能な者ほど苦しい。努力しても報われない」
低く声を落として、その1は言う。
「青い葉がそこらじゅうにあるだろ。あれが『目』だ。だから、最下層の者ほど祈る。祈ると食事や風呂がもらえるからな」
巨猫が言った礼拝堂の『水の気配』は風呂だったらしい、と魔女は悟る。そして階層が上がるほど、贅沢に暮らす事が出来るが質素と清廉を強いられるという。
「誰も教えてくれねぇけど、階層が上がるほど戒律が厳しくなる。平等を強いられ、頑張るほど搾取される。最下層で最低限の生活を過ごす方がよっぽどマシ、に見える。外部から来た者にはな」
「結構悲惨だぜ」とその1は顔をしかめた。
「自己犠牲を美徳としているこの国では、強いられている理不尽すら『良い事』だとされてんだとよ」




