慈悲伐採11
『教の国』は、幾重もの壁に囲われた国だった。
国と荒野を断絶する壁が最も高い壁で、内側にいくにつれて壁が低くなるらしい。全部で10層あり外側が下層、内側が上層となる。
「……つまり。国の内側の人だけ、いっぱい日光を浴びられるってこと?」
『そうなりますな』
「ダメだよ。お日様の光は、みんないっぱい浴びなきゃ」
日の光が当たらないと言うことは湿気が飛びにくく、その分衛生状態も悪い可能性があった。魔女は頬を膨らませた。巨猫は興味がなさそうだったが、『不浄は少々、困りますねぇ』と呟く。
「浄化魔術があるから、そんなに大事じゃないと思うけど」
そう、黒髪の若者が疑問を口にした。
「魔力が豊富な人って、そんなに多くないんだよ。1日に一回魔術を使うだけで倒れちゃう子とか、たくさん居るんだから」
眉尻を下げ、魔女は答える。魔女達の祖国は魔力がある人は多く、かつ国が全体として衛生面に気を使っているので色々と大事にはなっていない。だが、この国の場合はどうなのだろうか。
『枢機卿が来た』ということで騒ぎになり、「美しいところを見ていただきましょう」と第5層より先に案内されそうになる。だが枢機卿が「とても魅力的なご提案ですが、国の全体が見たいのです」と告げ、渋々ながらも最下層を見せてもらえる事になった。
案内の者は『余計な場所には行くなよ』と言いたげな目線で枢機卿を見ていた。
×
枢機卿が案内人の注目を引きつけている間に、魔女と若者達は最下層の街を巡ることにする。
そこで偶然出会った信徒に、『教の国』について教えてもらった。
『教の国』は幾つかの区域に国が分断されており、王城に近いほど『慈悲の王』の恩恵を受けるとされるらしい。
「『恩恵』ってなんですか?」
「病気にならない、美しい姿でいられる……など、様々な『恩恵』だ」
出会った信徒は、見た目相応に歳を重ねているようだ。だが信徒の話によると中心地に行くに連れて、若々しい見た目を保ったままの者が増えるのだそう。
『丸で『加護』の様ですね』
巨猫が(吐き捨てるように)呟いた。
「加護ってなに」
『『古き貴族』当主及び伴侶に掛かっておる奇跡の力です。貴女にも掛かっておりますよ』
「そうなの?」
魔女が問うと、巨猫は答えてくれる。
自身の身体を見てもよく分からないが、巨猫は無益な嘘は吐かないのでとりあえず信じておこうと魔女は頷く
いた。
春になったばかりだからか、やや寒い。冷たい風が魔女の頬を撫でた。




