慈悲伐採4
「神様が救ってくれないなら、人間はどうするの」
どうやら黒髪の若者は『神は人類を救うもの』だと思っていたようで、そうでない価値観と言うものがあまり理解できていないようだ。
「最終的には自分で自分を救うしかないんですよ。人はいつまでもエサを貰える雛鳥では居られない。自分の足で立って、飛び立つ必要があるんです。救われた後も、いつまでも神に救ってもらいたいだなんて烏滸がましいですよ」
隊商長は丁寧に答えてくれる。やっぱり優しい子だなぁと魔女は感心するも、彼女の伴侶である同僚の男から当然だろと言われたような気がした。
「仏教みたいだね」
「ブッキョウ?」
「なんか現実を頑張って生きて輪廻するみたいな宗教なんだけど」
「それは輪廻説法みたいですね」
「りんねせっぽう」
聞き馴染みのない単語に隊商長は怪訝な表情をする。それを黒髪の若者が補足説明すると、理解したようで隊商長は頷いた。
「生き返る、生まれ変わる……という価値観はまあ分からなくもないですよ。転生者がいますからね」
「そ、そうなんだ」
「そういえば、『偽王国』の魔王『暁の君』も転生者だと言われて居ますね」
「そうなんだ」
「で。あんたも転生者でしょう『樹木の勇者』さん」
「え」
「隠しても無駄ですよ。あんたは魂の形が、普通の人間と異なってますんで」
焦った黒髪の若者に、隊商長は呆れ混じりの目線をむける。
『抑、隠し切れて居らぬわ』「そうなの?」
同じく呆れの目線を向ける巨猫に魔女は小首を傾げる。魔女の場合、周囲に無頓着なので見逃しただけとも言えるが。
他の若者達は気付いていなかったようで、「あんたそうだったの?!」「なぜ話してくれなかったんですか?」と詰められていた。
「転生者……あるいは『勇者』の話は聞いていましたが、こんなに事が上手く運ぶとは。さすが『神に選ばれた者』ですね」
感心する隊商長に、若者達はよく分かったようなそうでないような表情で相槌を打つ。
「『勇者』には対になる相手が居るんです。あんたの場合、それが『暁の君』とか偽王国の者だったって事じゃないですかね」
「じゃあ、そこの彼が探してる『勇者様』にも、対の相手が居るって事?」
「そうでしょうけど」
黒髪の若者は、隅に座っているその3へ視線を向けた。誰なんだろう、と若者達が考え始めた時。
「僕だよ」
その3は徐に口を開く。
「僕が、『塔の悪魔』および『世界を分断する者』。『夜明けの勇者』の、対なんだ」
困惑する周囲をよそに、その3はさらに言葉を続けた。
「樹木は、僕の力の一部だ」
×
「樹木が君の力……ってどういうこと?」
「言葉の通りだよ。僕の魂の力を利用して、『偽王国』は世界に巨大樹木を生やしたんだ」
問う黒髪の若者に、その3は静かに語る。
「巨大樹木が生えなくても、最終的に世界は分断する可能性があった。僕を利用した人はそれを上手く使った、という事なんだけど」
「それは良い事、なの?」
「今の状態を考えると、かなり良い結果だよ……今の所は」
不思議そうな黒髪の若者に、その3は「本来は全てが焦土になる程酷い能力だったからね」と苦笑混じりに答えた。




