慈悲伐採3
https://x.com/sinojijou/status/1866720005326557405?s=46&t=Yi5pLMdiS_mxDEDYkpoqQg
これはこの話を書いてる最中の呟き。
次に向かう『教の国』は聖職者の多い国らしい。そう、隊商長が教えてくれる。
「『美の国』も宗教が根強い国だったと思うけど……」
と黒髪の若者が首を傾げた。すると隊商長は
「戒律が厳しい、つまりは役職によって明確に身分が分かれているんですよ」
と教えてくれる。
「役職で身分が決まってる……という事は、ただの旅人である自分達ができる事に限りが出るのでは?」
十字教の教皇の子らしく、聖職者の若者は疑問を述べた。
「そういう事もあろうかと、人を呼んでいるそうです」
だが隊商長はやや余裕そうに答える。
「誰が?」
「依頼者が、です」
「そうなの?」
問う魔女の方を隊商長は向いた。腿に頭を乗せる巨猫を見るも、巨猫は魔女を無視する様に魔女のお腹に顔を埋める。魔女はつまらなそうに口を尖らせた。
「親切な人だね」
と黒髪の若者は頷く。
「っていうか、その『依頼者』って誰なのよ」
尤もな疑問を述べる魔術使いの若者に
「機密事項なので言えません」
隊商長は緩く首を振った。
「お礼くらいは言いたいんだけど」
不貞腐れる魔術使いの若者から巨猫へ一瞬視線を向け、
「依頼者から許可が降りたならば、教えて差し上げますけどね。……まあ、信じられないと思いますよ」
小さく息を吐く。
「どういうこと?」
「まあとにかく、次の『教の国』は『義の国』よりは安全に進めるはずです」
不服そうな魔術使いの若者をそのままに隊商長が話を進めるが、
「そうかなぁ」
と黒髪の若者は首を傾げた。
「前回は騎士団がいましたけど、何の役にも立ちませんでしたよ」
「そうですね、初手で引き離されましたからね。……同じ轍は踏まないと思いますが」
聖職者の若者の指摘に隊商長は素直に頷く。
「ところで、『美の国』と『教の国』はどう違うの?」
「『美の国』は聖十字教及び十字教の国で、『教の国』は十字教の前身の、総本山です。……前身ということはつまり。神との約束をより原初に近い形で守っているという事ですね」
問うた黒髪の若者に、隊商長は静かに返した。
『まァ、世界の変動に対応せず、頑なに言われた事のみを守る頭の固い集団……とも言えますがね』
「ねこちゃん」
巨猫の言葉に、魔女は少し厳しく声をかける。
「……ともかく。『教の国』は十字教と違い、戒律を守る事に重きを置いた宗教……というか教え、の国です」
黒髪の若者は頷いた後、
「神に救われる、とかそういう考えはあるの?」
続けて問うた。
「何を言ってるんです? 神が私達を救う訳がないでしょう。神……特に『白き神』はただ私達を導き、護り、裁く。『黒き神』は私達の繁栄を喜び、奇跡を授ける。ただそれだけの存在ですよ」
「そうなんだ」
怪訝な表情をする隊商長に、他の若者達が「この子、本当に変わった子なの」「自分達もよく驚かされるんです」とフォローを入れる。
「神が救ってくださるのはそれはいい考えかもしれませんが、この世界を作ったのがそもそも神です。基本的に、我々は既に救われているんです」
「そうなの? この世界には悪人や嫌な目に遭う人も居ると思うけど……」
「人間はどうしようもなく欲深く、愚かです。神に救われていようと、その根本は変わらない。……裕福でも周囲に悪意を振り撒く者は居るし、貧困でも聖人の様な者は居る。それと同じです。どの様な世界であろうと、人間は人間である限り、勝手に周囲と比べて不幸になり悪意を振り撒くのです」
「なるほど」と黒髪の若者は深く相槌を打った。
「まあ、これは私の信仰である炎拝教の『最終的に報われるのは善行をした者である』という教えの解釈でもありますが」
一瞬だけ、魔女と巨猫に視線を向け
「……『教の国』の宗教はその国を設立する前の体験や習慣などが発展したものでしょうね。以前の状態に関係なく、地上の全ての民が聖なるものに近付く事ができる、奇跡を得ることができる、と考える宗教だと聞いています。つまり。神との約束を守り、より『聖なるもの』へ近付くための宗教ですね」
そう、隊商長は答える。




