慈悲伐採2
隊商長はいつもの通りに、国外での若者達の噂話を話してくれる。
最近は英雄視されているけれど、恐れ交じりが多いという。通った国では好意的だが、他の国が恐れ混じりらしい。
だけれど、巨大樹木をよく思っていない国もあるので結構複雑だとか。
「巨大樹木のことをよく思ってない国……って」
「前の話した気がしますけど、樹木が生えなかった他の国です」
恐る恐る問う魔女に、隊商長は答える。
「でも、樹木のない国は大体が魔獣に襲われて壊滅状態になったって聞いたけど」
「そうですね。だから、魔獣の力が弱まる樹木の周辺に新たに国ができました。それでも、残った国はあるんですよ」
「どんな国だっけ」
「他の国は変化した人達が多いですね。樹木のある国と違い『世界の影響を強く受けた』というべきでしょうか」
ちらりと隊商長は巨猫に視線を向けるが、周囲は気付かない。
「あるのは、鱗人の多い火の国、鰭人の多い水の国、獣人の多い氷の国、羽人の多い風の国、小人が多い土の国、魔人が多い木の国です」
鱗人は爬虫類のような鱗と角を持った人、鰭人は魚類のような鱗と鰭を持った人、獣人は獣の特徴を持った人で羽人は鳥類のような羽毛や翼を持った人達だ。小人は小さいが頑丈な人、魔人は魔力が多過ぎる人。
魔女達の故郷を含め、今まで通った国は人間の多い国だった。ある程度は亜人が混ざっていたが、やはり人間が大半を占めていたのだ。
「観光目的だったら、他の国にも寄れたかもなんだけど」
と黒髪の若者。
「全部の樹木の伐採が終わったら行けば良いのよ」
と魔術使いの若者は返す。聖職者の若者も同意見のようで頷いていた。
「結構あるね」
「これでも、合併や滅亡を繰り返してかなり減りましたがね」
魔女の言葉に隊商長はため息を零す。
樹木に生えていない他の国は、大まかには『金の国』の建国に関わらなかった国らしい。簡単に言えば天地の神から力を奪われなかったので原初の力を持っており、そのおかげで異形化が進んだのだろうと言われている。
他の国は『金の国』とその同盟国とは違う、様々な文化を持っているらしい。
「呪術や死霊術を扱う国もあるそうです」
「死霊術って禁術だよね?」
「『金の国と同盟国では』ですね」
「そうだっけ」
「他の国は国際法があっても守らない方が多かったですね。同盟国は『天の神』の司る秩序の影響を受けますが、他の国の『天の神』の力は国の法律の遵守程度の拘束力ですから」
「そうなんだ」
「ただ、同盟国内での『天の神』の力は強力なので、同盟国内に居た場合は他国の者にも強制力が働いて禁術の行使はできなかったそうです。さすがですよね」
「そういえば、どうして巨大樹木は同盟国周辺にしか生えなかったんだろう」
首を傾げる若者達を見、魔女はこっそりと巨猫にぴったりとくっ付いた。
「ねこちゃん分かる?」
『……『暁の君』が同盟国しか知らぬ所為か、世界の中央にしか興味が無かった所為、原初の力が強く影響を与えられなかった所為、でしょうな』
「結構要因あるね」
『『暁の君』は深くは考えて居らぬ』
「ふぅん」
魔女が頷いたところで
「やっぱり、君が色々用意していたって認識で良い?」
ずい、とその3が魔女(と巨猫)の方に近寄る。
『……』
「でも天罰が降ってないのを加味すると……って感じか。くそ、抜かりないというか腹黒い」
「確かにねこちゃんはお腹も黒いよね」
「そういう話じゃないんだよね……」
眉尻を下げたその3に魔女はぱちくりと瞬きをした。




