慈悲の樹木伐採
ここで突然ですが私の失敗談を発表します。
『慈悲の樹木編』で書くはずだった内容を『壮麗の樹木編』で書きました☆
気付いたのは峻厳の樹木編を書いてからでした。おっそ。
つまりプロットに無いアドリブを今からやります。ごめんなさい。
客車に座る魔女は、横に陣取る巨猫を手持ち無沙汰に撫でる。わしゃわしゃと雑に撫でても丁寧に撫でても怒らないが、毛の流れに逆らって撫でると少し嫌そうな顔をした。
表立って会話できない分、触れ合っているのだ(と魔女は言い訳をする)。
巨猫を撫でながら客車の中を見回すと、いつもの通りに若者達は若者達で会話をしていた。新しく加わったその3が隊商長に声を掛けながら、若者達の会話に入っている。
隊商長や若者達と会話をしたのち、その3が近くに寄ってきた。
「今気付いたんだけど……使い魔契約してるの?」
「うん」
「……へぇ」
巨猫の首元に一瞬視線を遣り、魔女に小さく声をかける。素直に魔女が頷くと、その3は視線を逸らした後、眉尻を下げた。それは困惑と気まずさを混ぜたような表情だ。
どうやら、その3は魔女の引き連れている巨猫の正体をなんとなく把握しているようだった。
「すごいね」
「前の国の入国に必要だったから……」
自身の伴侶(というか動物になれる)人間を使い魔にしている状況に、魔女も改めて複雑な気分になる。(伴侶が精霊の様な魂を持っている事が所以だが二人は知らない)
「でもさ、それって案外良いことかもね」とその3は呟いた。
「つまり、君の言うことを聞かせ放題だもんね」
「うん、そういえばそうだね」
意地が悪そうにニヤリと笑ったその3に、魔女もそうかと頷く。巨猫は余計な事に気付きよったと言いたげに息を吐いた。
「ねこちゃん、悪いことしちゃダメだからね」
巨猫の頭を撫でながら、魔女は言い聞かせる。だが巨猫はぷいと顔を逸らした。命令じゃないから効かないのかな、と魔女は首を傾げる。
「その『ねこちゃん』ってのは?」
「そう呼んでたから、呼んでるの」
「へぇー」
呼称についてその3が問うたので、魔女は素直に答えた。
「呼ばれるの、許可したんだ」
意外そうに巨猫を見るも、巨猫は興味なさげに尻尾をぱたんと床に軽く叩きつけただけだ。
その3は最近の話や思い出せる限りの昔の話を、魔女に話してくれた。どうやら、成人の儀式を迎えた頃までは思い出せるらしい。なので、魔女と同級生だったことは分かるらしい。
「ただ、もうちょっと昔のことは思い出せないみたいなんだ。……切り取られたみたいだ」
隊商長が指摘した『魂の欠け』が本当ならば、本当にないんだろうな、と魔女は納得している。記憶というものは脳と魔力及び魂に刻まれているとされているからだ。脳で記憶されたもののうち、『思い出』が魔力を通じて魂に刻まれる。そう『おばあちゃん』が言っていた。
「昔よく使ってた魔術とか、魔術操作の癖は出てる?」
魔力にも、僅かだが記憶が刻まれる。それは繰り返ししてきた術式だったり、魔力操作の癖だったりする。それについて魔女が指摘すると、
「旅で使っていた術式は出るんだけど、学生の頃の魔術は出ないみたいだ」
とその3は本当に困った様子で眉尻を下げた。なので、『幼少期の経験』が丸ごとないのだろう。




