峻厳伐採19
客車の中にて。
「あ。思い出しました」
唐突に隊商長が声を上げる。
「え、なに?」
そのまま魔女の方を向いたので、微睡んでいた魔女も姿勢を正して隊商長を見つめた。魔女が寄りかかっていた巨猫が、面倒そうに顔を上げる。だが直ぐに魔女の太腿に頭を乗っけて目を閉じた。「ねこちゃん、ちょっと邪魔」と除ける魔女達に隊商長はやや呆れた目線を向ける。
「あなたの持ち物です。そいつと同じ気配がするんですよ」
とその3を一瞬見やり、「ちょっと、荷物見せてもらえませんか」と魔女に頼み込んだ。
「え、うん。いいけど……」
答えつつ、何か怪しいものはあっただろうかと内心で首を傾げた。
それから。
「ありました。これですよ」
「……杖?」
魔女の杖を見、隊商長は確信する。それと同時に、魔女の杖に今までの樹木の葉と同じ色の飾りがついてることに気付く。
声にその3も反応し、魔女と隊商長に近付いた。
「ちょっと、その杖見せて」
「いいよ」
魔女の杖にその3の手が触れた途端、飾りがまばゆい光を発する。
「……ああ、そうか」
思い出した、とその3は呟いた。
「やはり、魂の欠けが小さくなってます」
隊商長が少し安堵した声色で零す。
「樹木は、僕の『役割』の応用、なのか」
魔女の杖の飾りを見つめ、ため息を吐いた。
「本当に、僕の力が役に立つ……なんて」
顔を上げ、その3は魔女を見つめる。
「全ての樹木に行けば、僕の記憶は全部が戻るかも」
「そうなの?」
「樹木は僕の魂の『役割』を使ってる。だから――樹木に、僕の記憶がある」
「ちょっと別の人の魔力も混ざってるみたいだけど」と続けた。混ざっているのはどうやら『暁の君』と呼ばれる、『偽王国』の一番偉い人の魔力らしい。
「ついでに思い出した」と、その3は勇者のことを改めて周囲に聞くが、魔女と若者達は知らなかった。
「次の国には居るかもしれませんよ」
と、隊商長は答える。「知ってるの?」とその3が身を乗り出した。
「そいつって『勇者様』でしょう? 確か聞いたんですよ。度を超すお人好しの格好付けが『教の国』にいると」
頷き、隊商長は地図に視線を向ける。
「次に行く国です。すっかり、知っていてそこに向かうもんだと思っていましたが」
「よかった。じゃあ、そのままで大丈夫だね」
と喜ぶ若者達にその3も頷いた。
「僕も、しばらく一緒に行くよ。いいかな」
「良いですよ。金を払ってくれるんならですが。あと、あんたは強いですからね」
その3の申し出に、隊商長は快諾する。それに安堵し、料金を聞いてその3は支払った。
それから、その3は巨猫を睨む。
「僕達をこんなにして、簡単に赦されるとは思わないことだね」
だが巨猫は涼しい顔で、それを見つめ返しただけだった。




