峻厳伐採17
――メキリ。
何か軋むような音が鳴った。
それと同時に周囲の魔力が急激に吸い上げられてゆく。
「これは……まさか!」
黒髪の若者は周囲を見回す。
「あは、」
不意に35番目が肩を震わせた。
「あはははははは!」
突如笑い始めたそれに、魔女と若者達は警戒する。――ただ、巨猫は愉快そうに目を細め笑っていた。
「なぁんだ、簡単じゃない。怯えて損した」
ふぅ、とため息を吐き、35番目は髪を払う。
「自我もあるし、なんだか魔力が満ちてくるわ」
より邪悪に表情を歪め、少女は若者達を見据えた。
「ぶっ殺してあげるから、覚悟なさい!」
×
『――小娘』
真剣な声色で、巨猫が話しかける。
「なに」
『認識阻害と気配魔力遮断の術式を掛けました。今の内です……『実』を回収なさい』
それと同時に、巨猫に庭の方へ押し出された。その先に樹木の『実』があるのだろうと直感的に察する。巨猫に頷き、魔女は駆けだした。
そして。
「……あった」
最上階の森の奥、開けたそこには赤色に輝く実があった。
やはり色は樹木の葉に似ているようだ。
赤色で、不思議な煌めきを持っている。
木の実は遥か高い場所にあった。
そのはずなのに、気付けば手の届く位置にある。
思わず、魔女はそれに手を伸ばした。
ぷち。
手のひらの上で木の実の千切れる音がして、手元に木の実のずっしりとした重みがかかる。
その瞬間、木の実が消えた。
「わ、」
樹木が震え出す。
魔女は急いで若者達の元に駆け出した。
×
「木の実、採ったよ!」
叫んだ魔女に、若者達が歓喜と安堵の声を上げる。周囲の荒れ具合に、相当激しい戦闘を行っていたのだろうと察した。何もかもがボロボロになっており、35番目の戦車も破壊されていたのだ。
「嘘でしょ?!」
魔女を睨み、「やっぱりアンタを先に仕留めておけばっ!」と35番目は魔術を放つ。だが、やはり当然のように、即座に移動した巨猫によって魔術が分解された。「アンタなんて、アンタなんて、ぇっ!」半泣きになりながら様々な魔術を放つが全て分解される。放たれる魔術もみるみるうちに弱まっていった。
「この、アタシが負け……なんてっ!」
ぺたり、と座り込み、35番目は心底悔しそうに表情を歪める。
「認めないっ! 絶対に認めな――」
突如、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
「悪いが、回収させてもらう」
そこへ、黒いローブを纏った者が現れる。そして35番目を拾い上げ、
「……お前達が、ここまで来るとはな」
そう皮肉っぽく告げた。ローブのフードの隙間から見えたその髪は白髪で、『霊の国』で出会った『偽王国の死神』なのだと悟る。
「待って! その人をどうするつもり?」
問う黒髪の若者に『偽王国の死神』は「答える義理はない」とだけ告げ、姿を消してしまった。




