峻厳伐採16
「ふーん。アンタ達が『樹木の破壊者』って訳ね」
そこには戦車に乗った力強い戦士のような勇ましい少女がいた。
少女は一旦魔女達への攻撃を止め、黒髪の若者達をじろじろと見る。
「きみは、誰」
険しい表情で黒髪の若者が問いかけると
「アタシは峻厳の大樹の守護の役を司る、『精霊の偽王国』の35番目」
自信満々に35番目は答えた。
「合流できないよう邪魔したはずなんだけど?」
苛立ち交じりに少女が問う。
「ごめんね。僕の方が強かったみたいだよ」
「は?」
穏やかな微笑みを湛えたままで、くすんだ金髪の男性が答えた。
「アンタは……塔の悪魔! くたばったんじゃなかったの?」
35番目は心底驚いた様子で男性を見る。
「まぁね。約束、守ってもらったみたいでね。律儀な人だよね」
そう男性は薄く笑った。
「……15番目のやつ、やらかしたわね!?」
「僕の前では29番目って言ってたよ」
「そんなのどうでも良いのよ!! あんの詐欺師!!」
そのやり取りを傍から眺め、魔女は目を見開く。
「ね、ねこちゃん。その3くんだ」
『其の様な名では無いでしょうが』
こそ、と巨猫に耳打ちすると呆れ交じりのため息が返された。
「やっぱり『偽王国』の関係者だったんだ」
「でもやり取りを見る感じ、良い仲ではなさそうよ」
「一応、こちらの味方と見て良さそうです」
若者達も何やら、その3との関係性に悩んでいたらしい。だが、今のやり取りでこちら側だと判断したようだ。
「っていうか、人多くない? でもいいわ。アタシは最強なんだから」
気を取り直し、35番目は軽く手を振る。すると兵達が現れた。
「これはアタシだけの衛兵よ。倒せるもんなら倒してみなさい」
×
襲い来る衛兵達に、若者達は手こずる。一体一体がそこそこに強い上に、集団でかかってくるので厄介なことこの上ないのだ。
だが巨猫のとの戦いで体力が削れているらしく、若者達でも対応できる。若者達とその3は互いに背中合わせになって、周囲の兵達を倒してゆく。
「ふん。アンタ達みたいなのにやられたアイツらって、結構しょぼかったのね」
などと言っているが、既に余裕は無くなっていた。
「(このままじゃあ、アタシも負けちゃう……!)」
『暁の君』に絶望されたくない。せっかく、役目も賜り『義の国』の征服も行ったというのに。
「(このまま、何も成せないなんて嫌!)」
樹木の力がある限り兵は消えないけれど、それで勝っても『何も成せなかった』事実は覆せない。
やはり、樹木を咲かせるしかない。
――ビシリ
不意に鳴った音に、35番目は顔を上げる。
信じられないことに、戦車にかかっていた奇跡級の守護魔術が剥がれかけていたのだ。見下ろすと、兵達の攻撃を余裕で防ぐ巨猫が、尾を妙な形状で維持したままでこちらを真っ直ぐに見つめていた。
「――ひっ!」
このままではやられる。そう、直感が働いた。
本当のところ、樹木を咲かせる方法など分かりきっていた。
樹木と一体化し、すべての魔力を明け渡す事だと。
『熱』に魂の全てを捧げて、樹木の巫女となり人間を辞める事だと。
怖かったのだ。
世界を破壊して今更だと言うかもしれないが。
死を目の前にして、少女は覚悟を決めた。
樹木を咲かせることを。




