峻厳伐採15
「見つけたわよ! 樹木の魔力をまとったガキ!」
魔女と巨猫が森の中を進んでいると、少女が飛び出してきた。
「わ! 見つかっちゃった」
どうしよう、と巨猫に視線を向けるも彼はなんとも思っていない様子だ。
「アンタをぶっ殺せばアタシの樹木は消えないんでしょ? 簡単よ!」
言うや否や、35番目は魔術を放つ。だが、それは魔女に触れる前に霧散した。
「は?」
魔女は巨猫が守ってくれたのだと察する。どうやら、目の前の少女は本気で魔女を消すつもりらしい。放たれたものに込められた魔力量と威力が物語っていた。
「(……でも、ねこちゃんが防げる程度なんだなぁ)」
少女が弱いのか巨猫が強いのかいまいち判別がつかない。
「まあ、簡単にやられるよりは面白いかもね!」
少女は魔術を操り、周囲の地形や植物などを動かす。だが、巨猫は特に息を乱すことも無く全てを薙ぎ払う。
「大丈夫?」
『まずまずですな』
魔女が気遣わし気に声をかけるも、普段のような声色の返答があるだけだ。
『此の姿では呪印が組めませぬので、普段と勝手が違うのです』
「それ大丈夫なの?」
『……抱き着いて頂けませんか』
「? うん」
『是で、遠慮なく魔術を放てます』
「(わ、わたしの魔力で自分の魔力回復させてる……!)」
これは魔女と巨猫の魔力の相性が良いからできる代物だ。だからと言って、無限に魔力が回復する訳ではないが。
『面倒なので此の儘、城に迄誘導致します。貴女も、樹木の本体に近い方がやり易いでしょう』
「なんの話?」
『『実』の回収ですよ。貴女でなければ回収が出来ぬ』
「あ、やっぱりそういう感じなんだ」
巨猫は魔女に抱き着かれたまま、城に向かって移動を始める。それを逃亡だと勘違いしたらしい少女は「あは! やっぱり分が悪いってと思ってる? 今更ね!」と嗤い、追いかけた。
×
城の内部に移動してから少女は周囲の兵や空間を自在に操り、森の中より攻撃が過激になっている。だがその表情に余裕はなく、苛立ちに満ちていた。
「しぶとい!」
少女は鬱陶し気に叫ぶ。
「こいつ、どんだけ魔力持ってんのよ……っ!」
ギリギリ、と歯ぎしりをし表情を歪めた。
『貴女は魔力水を飲んでいて下さいまし』
「うん」
巨猫の背に乗った魔女はごそごそと鞄を漁り、魔力水の入ったボトルを取り出す。それにストローを刺して飲み始めた。
「ガキというよりも、そっちの使い魔の方が厄介ね」
魔女ではなく使い魔の獣の方が魔術を使っているのだと悟り、舌打ちをする。
「ほらほら! そっちからも仕掛けて来なさいよ! びびってんの?」
『攻撃等為る価値が、有りませんな』
は、と巨猫は鼻で笑った。少女が怒り出す様子はなかったので、やはり巨猫の言葉は理解できていないようだ。
『樹木の蕾を咲かせられぬ童等、私の敵ではない』
言う間に、放たれた巨大な火球も水も礫も刃のような風も、霧散させる。
『なので、潰す面白みも無い』
「蕾が、咲かせられない?」
「! あんた、なんでその事を……っ!」
魔女が呟いたその言葉に、少女はさっと頬を朱に染めた。同時に、攻撃がより激しくなる。
「ねぇ、これ大丈夫なの?」
『まァ後、半刻程度成らば持ちますよ』
「意外と長いね」
余裕そうな巨猫に、「(さすが宮廷魔術師)」と魔女は感心した。
「絶対許さない、赦さないわ!」
逆上した少女は大きく腕を振り、召喚の術式を発動させる。そうして、二匹の生き物に引かれた巨大な機構に飛び乗った。
「ふふ、驚いた? これは『戦車』よ! アタシの力を増幅させてくれる魔導機! まとめてひき殺してやるわ!」
そう、少女が叫んだ時。
「大丈夫?!」
そこへ、若者達が現れる。




