峻厳伐採13
「もしかして、樹木と一体化した国なのかな?」
「樹木?」
黒髪の若者の呟きに、くすんだ金髪の男性が聞き返す。
「そう。多分、ここの国の樹木は赤い色の葉っぱだと思うんだけど……」
「赤い色の葉……ああ、そこら中にあるよね」
言われ、黒髪の若者は周囲を見回す。すると、ちらほらと赤く煌めく葉を持つ植物があることに気付いた。周囲には、柘榴石のような不思議な肌をした枝も落ちている。
「城に近づけばもっと増えるよ、その赤い葉は」
「城? つまり向こうか……」
「城は女王とあの兵達の住処だよ。この国が変わってしまった時、国民達の大勢が城に連れられて処刑されたらしいんだ」
「処刑!?」
「この国の女王は横暴でね……おっと。これ以上は言えないかな、命が惜しいから」
草むらに身を隠したままで黒髪の若者と、くすんだ金髪の男性は声を落として話し込んだ。時折、兵が近くを通る足音がした。
「城まで行って、女王を倒したらこの国は元に戻るのかな?」
「さぁ? 僕は知らない」
「とにかく。女王がいるなら、僕は城に行かなくちゃいけない」と黒髪の若者は呟いた。
「とりあえず、城の近くまで行けば何か分かるかもしれないし」
「仲間は探さないの?」
「多分、みんな城を目指すと思うから。運が良ければ、きっとその途中で会える」
「運頼みかぁ……アイツに似てるね」
「『アイツ』って?」
「ええと。誰だったかな……思い出せそうだったんだけど」
「忘れた人のこと、なのかな?」
黒髪の若者の様子にくすんだ金髪の男性は表情を緩めた。その様子に彼と彼が忘れてしまった人物は仲が良かったのだなと想像する。
「僕に似てるってのはどんなところだろ」
「やけに自信満々なところと『なんとかなる』って根拠なく思ってるところとか」
「結構覚えてない?」
「雰囲気だけだよ。名前とか、顔とか覚えてない。だから、この国に迷い込むまでずっと探してたけど、見つけられなかった」
「そうなんだ」
兵の気配が消えたので、黒髪の若者とくすんだ金髪の若者は移動を開始した。
「この国を出られたら、またソイツを探す旅をするよ。そうしたら、いつかきっと会えるかもしれないし」
「じゃあ、僕達と一緒に旅をするってのはどう?」
「君と、旅?」
「うん。一人で旅をするより、はるかに安全だと思うんだけど……」
黒髪の若者の提案に、くすんだ金髪の若者は口元に手を充てる。
「嫌だったら良いんだけど……」
「いいや。それは面白い提案だと思ったんだ」
「もしかしたら、一度行った国に戻るかもしれないけど」
「それでもいいさ。会えるんだったら、どの国に行っても同じことだ」
と言うことで、くすんだ金髪の男性は黒髪の若者の旅についていくことを決めたようだった。
×
それから森の中を進むと。
「うわ!」「あっ!」
魔術使いの若者と聖職者の若者と合流した。魔術使いの若者と聖職者の若者は近くに居たらしく、それから二人で行動していたらしい。
合流を喜び合う3人に
「いいね、喜びを分かち合える仲間がいるって」
そう、くすんだ金髪の男性は穏やかに微笑む。
「お兄さんにはいないの?」
「居た……はずなんだけど。どうにも思い出せなくてね」
問いかけた魔術使いの若者に、くすんだ金髪の男性は自身が記憶喪失であることなどを話した。
「多分、本当に居たとしても。この国にはいないよ。だって、こんな状況を許すような奴じゃないはずだから。……そんな気がする」
そして、これからの目標を話し合う若者達。
「樹木は城の方に在るのね?」
「でも、あの子とも合流しなきゃですよ」
樹木の破壊と合流のどちらを優先するかで意見が割れていた。
「そうだった。まだ人がいるんだったね」
「小さい子と羽人だっけ」と呟く金髪の若者に魔術使いの若者と聖職者の若者は頷く。
「隊商ごと巻き込まれたから、隊商長さんや他の荷物とか大丈夫かなぁ?」
黒髪の若者は周囲を見回し、無事だと良いなと零した。




