峻厳伐採12
「ここ……どこだろ?」
目を覚まし、黒髪の若者は周囲を見回す。すると人の気配がし、黒髪の若者は武器に手を触れさせたままでその方へ近寄った。仲間かもしれない、と考えたからだ。
「どうも初めまして。ごめんね、君の知り合いじゃなくて」
気配の主は、見知らぬ男性だった。くすんだ金髪で、作り物のような得体の知れない雰囲気を持っている。武器に触れる手に思わず力が入った。
「おっと、僕は君に危害を加えるつもりはないよ。見ての通り、丸腰だ」
少し瞠目し、くすんだ金髪の男性は手袋を外さず両手を上げる。だが、黒髪の若者は険しい表情のままでくすんだ金髪の男性から視線を外さない。
「嘘だ。その腕輪、杖でしょ」
指摘すれば、くすんだ金髪の男性はわずかに表情を緩めた。
「……ふぅん。君、良い『目』を持ってるじゃないか。心眼、かな」
「……」
「丸腰じゃないけどさ、君に危害を加えるつもりはないんだよ。お話ししよう」
くすんだ金髪の男性は柔らかい表情と仕草で黒髪の若者に話しかける。
「洗脳の類は効かないですよ」
「警戒されてるなぁ。まあそのくらいが丁度いいよね」
ひとまず、黒髪の若者はくすんだ金髪の男性の話を聞くことにした。
「ここにいるってことは、新しく迷い込んだ人だよね?」
くすんだ金色の髪の男性は問う。それは確信めいた声色だった。特に隠すことでもないと判断し、黒髪の若者は頷き肯定する。
「君は……?」
「僕は……ああ、もう。思い出せない」
苦しそうにくすんだ男性は溜息を吐いた。話を聞くと、彼はどうやら記憶喪失らしい。昔の記憶から、全てが曖昧なのだという。
「『塔の悪魔』って呼ばれていたことはなぜか覚えているんだけど……」
「塔の悪魔? ……それって偽王国なんじゃ……」
「僕は、連中の仲間になった覚えはないね。協力、したらしいんだけど」
「それって」
「本当に、記憶がないんだ。何もかも……誰かと同行していて、その人を探してるらしいことは分かるんだけど」
「ここに書いてあるからさ」そう言い、彼は徐に紙を取り出す。「これは、僕の字。確かめたから合ってるよ」その言葉をとりあえず真実だとして、黒髪の若者は頷いた。
「とりあえず、兵に見つかったら危ない」
「兵?」
「ほら、来るよ」
四角くて平らな、いわゆるトランプのような四角いものがやってきた。真っ赤な装備で、槍のような武器を持っている。
「もしかして、アリスなのかな……?」
黒髪の若者は呟く。
「アリス? 誰それ」
「あ、人の名前……ではあるんだけど、今回のはそうじゃなくて」
「とりあえず静かに。見つかっちゃうからね」
そうして、兵は居なくなった。
「ここは女王の城だよ」
「女王の城」
「遠くに見えるだろう」と言われ、示された方向に何か建物があることが確認できる。
「とある女性が治めていて…」
「それって偽王国の「しっ! 言っちゃダメ」……なんで?」
「名前に反応するんだ。その女王様は」
「そうなんだ」
それから、黒髪の若者は周囲を見回す。
「僕の他に、人を見てませんか」
「人?」
「魔術使いの子と聖職者の子、それと小さい子とか羽人の人とか……」
「うーん、見てないかな」
「そうですか……」
「同行人が居たってことだね。その人達を探したい、ってところか」
「そうです」
「いいよ、手伝ってあげる。それに、僕もいい加減にこの国から出たいしね」
ということで、二人は同行することになった。




