峻厳伐採10
騎士団と合流し、荒野を進んだ隊商は『義の国』へと近付いていた。
国を覆う国壁が見え始め、『偽王国に支配された国』と言うことで若者達は気を引き締める。魔女は普段通りに、呑気に巨猫を撫でていた。
「普通の国に見えるけど……」
黒髪の若者は呟く。見える限り、今までの国と対して違いはないような気がすると。
「外見がどうであれ、樹木が生えた当初から『精霊の偽王国』に制圧された国という事実はありますからね。隊商は他の国と同様に交易はできていますが、客人を運び入れたことはそう無いですよ。……ちなみに客人が国を出たことは無いらしいです」
「その情報、もう少し前に欲しかったなぁ」
隊商長の言葉に、魔女は巨猫を抱きしめた。聞いたとしても今更の話ではあるが。急に抱きしめられても、巨猫は大して表情を崩さなかった。
「私も相当に覚悟を持って『義の国』に送り届けようとしてるんですよ。……私が死んだら、実質隊商は壊滅しますからね」
至極真剣な様子で隊商長は小さく息を吐く。
「あなた達を送り届けるよう、私に言われているので。私があなた達を送り届けることに意味があります。なので、私以外が『義の国』に送る選択肢は初めから無かったんです」
「そっか、ありがとう」
感謝を述べ、魔女は巨猫を撫でた。若者達もやや不服そうにしながらも現状はこうなので、どうこう言うのは諦めたようだ。
そして国壁と国に入れる門が目の前に現れた直後。
結界に触れたような、空間が歪んだ感覚がした。
「しまった、既に仕掛けられていたのか!」
黒髪の若者は叫び、他の若者達は咄嗟に武器を構える。
「わっ!?」
魔女には巨猫が覆いかぶさり、魔女は思わず巨猫をぎゅっと抱きしめた。
刹那、世界が強く揺らぎまばゆい光に包まれる。
そして気づけば、見知らぬ場所に飛ばされていたのだった。
×
周囲を見回すと、森の中だ。
「なに、この植物」
周囲を見回し、魔女は呟く。
周囲は巨大な草花に囲まれていたのだ。木、ではなく草と花。自身が縮んだのだろうか、と辺りを見回すが比較対象がいないのでよく分らない。
ガサ、と魔女のすぐ近くの茂みが揺れる。警戒してそちらに杖を向けようとして、杖がないことに気付いた。どうしよう、と焦ったその時。
『斯様に怯えずとも。周囲には私しか居りませぬよ』
「ねこちゃん!」
茂みから見知った巨猫が現れたのだった。巨猫はいつも通りのサイズ感だったので、少なくとも魔女だけが縮んでいるわけでないと分かる。
『どうやら逸れずに済みましたな。他の者とは見事に逸れましたが』
「ほんとだね」
落ち着いて周囲の気配を探ると、彼の告げたとおりに巨猫と魔女しか生き物はいないようだ。つまりは他の若者達や隊商長と逸れてしまった。
「薄紫のねこちゃんも居ないや」
『霞色ですな。……奴が居たところで役に立つとは思いませぬが』
呪猫当主について述べると、彼はやや拗ねた様子で鼻を鳴らす。それもそうか、と魔女は思い直した。実際、特に何か行動してもらったことなどそうなかった(気がした)からだ。
「どうしようね」
『周囲の状況把握をしつつ、人を探せば宜しいのでは。貴女の強運成らば、何かしらの都合は付くかと』
「そうかなぁ?」
そう話し合いをしつつ、魔女と巨猫は森の中を進むことにした。




