峻厳伐採9
「たのしそーだね、『呪う猫』」
とある場所で『黒い人』は『呪う猫』に遠隔で話しかける。『呪う猫』は大きな反応は示さないが、『それが何か』と言いた気な気配を感じた。『熱』を入れてから随分と素直になったものだ、と『黒い人』は内心で呟く。まあ、彼は『命の息吹』の前では以前からそれなりには素直だったけれど。
「いいのいいの。推しが仲良くしてるの、見るの好きだから」
そう答えると、彼から呆れたような気配を感じた。呆れられたとしても『黒い人』自身は別に気にしない。だってすべてを『愛』で受容する神なのだから。さすがに行き過ぎると『白い人』から怒られてしまうのでほどほどにしようとはしているが。
「『命の息吹』が『実』、『呪う猫』が『殻』を集めてるけどさ、ほんとうにそれで大丈夫だと思ってる?」
実は樹木の『実』は魂が妖精である者しか回収できない。だから、今まで『命の息吹』以外に樹木の実を回収できた者は居なかったのだ。反対に、樹木の『殻』は魂が精霊に近い者でないと回収できない。それぞれの理由は『神に近い魂だから』だ。
動物や人間の魂は『肉の殻』との繋がりが深い。だから、すぐには魂が発露できない。だが妖精や精霊の魂は肉体との繋がりが薄いために奇跡との親和性が高いのだ。
ちなみに樹木の発生による『魂の発露』によって魂が妖精に近い者達は皆、樹木に飲み込まれてその中で眠っている。『樹木の勇者』達の活動によって解放されている者もいるが、一度樹木の中で眠った彼等は魂の発露は修復されている筈。なので、魂と肉体との繋がりは通常に戻っている。
「答えないってところで粗方予想は付いてるのだけれど」
きっと彼は文字通り命を懸けて『命の息吹』の不安を払拭しようとしているのだ。彼女が長生きするために、余計なものを排除するために。
「別に、私と白い人は、大事な娘である『命の息吹』が無事ならまあいいんだけどさ」
本当はそうでもないのだけれど。その思いは口には出さないでおく。それで動揺するとは思っていないけれど、だからと言って何かが変わるわけでもないからだ。これでも『命の息吹』の身内として、その伴侶である『呪う猫』には目をかけているつもりだ。(『白い人』から「やり過ぎです」と注意を受けるくらいには。)
「『呪う猫』、きみは『命の息吹』の大事な人だってこと、忘れちゃダメだからね」
そう、声をかけてみたけれど、やはり『呪う猫』は何も分かっていないのかもしれない。
「(……まあ、最終的に『命の息吹』がどうにかするだろうし)」
このままでは絶対に大丈夫じゃないが。だけれど、きっと大丈夫。そう、『黒い人』は思う。その勘は外れたことはないのだ。




