峻厳伐採6
次の『義の国』は、元々は軍の強い国だったらしい。だが『偽王国』に制圧され、今は見る影もないという。
「どうやって攻めたのかは不明だが、恐らく魔術だろうという話になっている」
そう、騎士団長が若者達に説明する。
「元々、『義の国』は魔術使いが生まれにくい国だったそうだ。そういう資料もある」
言われて、魔女もそういう医学関連の文献を見たな、と頷いた。
「だから、魔術に頼らないような工夫をしていたんだ。魔法薬や武術を磨いて独特な文化を築いていた」
その国独特の魔法薬は、ごく稀に市場に流通することがある。魔女はその不思議な魔法薬に興味を抱き、伴侶や友人達を経由していくつか購入した覚えがあった。
「だからと言って、魔術に対しても対策を講じなかった訳ではないはずだ」
例え魔術使いの生まれ難い国だったとしても、他国には魔術使いが多く居る。だから、何かしらの争いが起こった時のために無策な訳がない。
「だというのに、どうして『精霊の偽王国』に真っ先に制圧されてしまったのだろうか」
それは長年の謎となっているそうだ。『義の国』が制圧された時に多くの人の命は失われ、当時の様子を語れる者はそう居ないという。
「『義の国』を今、支配している偽王国の者は『シトナイ』と言う者らしい。見た目はただの少女らしいが」
その噂は、実際に国へ行って確かめねばならないだろう。だが、樹木が生えた当初から今までを生きているのなら、それなりに年齢を重ねているはずだ。
「ねぇ、ねこちゃん。偽王国の人の名前教えてくれたりする?」
『互いに本名は知りませぬので。まぁ、占いで見ようと思えば視えますが。面倒なので致しませぬ』
「そっか」
魔女は巨猫の首筋や背中を撫でる。さらさらでふわふわな指通りの良い毛並みは、荒野でささくれ立つ魔女の心を癒してくれた。旅の最初からいてくれてもよかったのに、と思いはしたものの彼にも色々あったんだろうと考えるのをやめた。
騎士団と若者達はまだ色々と会話をしている。それを横目に、再び魔女は眠たげな巨猫のために『おやすみの歌』を小さな声で歌った。彼のために特別に調整したものだ。
しばらくそれを聞いて喉を鳴らしていた巨猫だったが、しばらくすると大人しくなった。寝入ってしまったようだ。
「ねぇ、ねこちゃん」
眠っているのを承知の上で、魔女は巨猫に話しかける。いつもは話しかければすぐに耳が魔女の方を向いてくれるが、今はぴくりとも動かない。
「わたし、ねこちゃんのこと。大好きだからね」
いつか、『大嫌いって言ってごめんね』と言いたいけれど。魔女は怖い思いをさせられたし、彼はそれについて少ししか謝らなかった。だから、当分は言うつもりはない。けれど、彼が大好きで愛おしく思う気持ちはちゃんとあるのだ。伝えるのが恥ずかしいだけで。




