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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
巨大樹木:峻厳

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峻厳伐採5


 騎士団の話を聞くと、宮廷魔術師や宮廷錬金術師に後れを取っていることをやや気にしているらしい。


「我々騎士団が活動するのは王や宮廷の危機や儀式の場ぐらいですからね。無論、活動しないに越したことはないのですが」


団員がそう零す。

 宮廷魔術師は戦争の兵器や魔術研究、国防などでよく目立つ。宮廷錬金術師も、魔道具や魔導機の発展などで目立つところがある。だが騎士団は儀式の場では目立つがそれ以外が微妙なのだという。


「でも、若い男の子達の憧れは大体騎士団でしたよ」


そう、黒髪の若者が団員のフォローをしていた。魔術使いの若者も「学生時代、女の子達も騎士団員達に夢中だったわね」と零した。

 魔女は周囲とはあまり関わらなかったので、騎士団に憧れる者が多かったかどうかなど知らない。巨猫はどうでもよさそうだった。


「ほんとにわたしと魔術と呪い以外に興味無いね、ねこちゃん」


巨猫の首元を撫でると、首輪の感触がする。それに触れ、「(本当にねこちゃんはわたしの使い魔になっちゃったんだな)」と感心のような途方に暮れるような心境に陥った。首輪に刻まれている文字を、そっと指で辿る。


『騎士団など、王の護衛とは言いつつ殆ど飾りですからね』


眠そうに巨猫が精霊の言葉で返した。やはり長年の不健康生活が祟っているんじゃないだろうか、と魔女は訝しんだ。


「寝てても良いよ、ねこちゃん」

『そうさせて頂きましょうか』


撫でながら囁くと巨猫は魔女の腿に頭をのせ、静かになった。ついでに魔女は撫でながら『おやすみの歌』を鼻歌で歌う。


 そうこうしているうちに、話題はいつのまにか『薬術の魔女』の話になっていた。「どこぞの貴族の頭が禿げた」だの「物理で護りようのない災厄の部類」など散々な言われようだった。むっとして口をへの字にするが、気付かれていない。


「宮廷の魔術師だって、役職がなければ災厄のようなものだ。研究と魔術以外からきしだろう」


 そう言う者も居た。どうやら宮廷魔術師は他の官達の中では雑用も言いつけられるほどに扱いが悪いらしい。


「(それならねこちゃんも『宮廷魔術師になるな』って言うよね……)」


小さく息を吐き、眠る巨猫を撫でる。

 彼は春来の儀で魔力を吸われ、研究をして論文を書き、雑用をして兼業もしていたのだから本当に大変だっただろうな、と思う。


「(代わりに色々と家では自由にゆっくりさせていた……つもりだけど)」


とは言いつつ、彼は自室に篭って作業をしたり魔女に引っ付いていたりしたので実際はどうなのか分からない。ただ、『魔女の匂いを嗅ぐと落ち着く』だの『抱いていると安心する』だの言っていたので、それが事実で魔女自身が役に立っていたのなら嬉しい。


 騎士団が宮廷魔術師の愚痴を言い始めた頃、「ただの実力不足でしょうが」と隊商長が割り込む。やはり元宮廷魔術師として気に障ったのだろうか。


騎士団(あんた達)の話はそれなりに聞いてますが、軍人の私の夫よりも鍛錬が甘いんですよ。警備の仕事も軍に取られて、ますます飾りに成り下がってるじゃあありませんか」


そう言われ、う、と騎士団は言葉に詰まる。心当たりがあるようだ。


「むさ苦しくとも軍部みたく懸命に身体を鍛えるとか、山に入って魔獣を狩るとか治安維持に一役買うぐらいやったらどうですか。通鳥(うち)の私兵はそれくらいやってますが」


ふと、魔女は隊商長が通鳥当主であることを思い出す。騎士団員達も数名気付いたようで、はっとした顔で姿勢を正した。よくわかっていない様子の騎士団員もいるが。


「文句があるなら勝負、してみます? 私は元宮廷魔術師ですが」


そう煽られ、一人の騎士団員が隊商長に勝負を挑む。そして、その騎士団員は負けた。触れることすらままならなかったのだ。


「まあ、私は当主ですからね。勝つのは当然って感じですが——あぁ、そうです。そこの猫に勝てたら尊敬しますよ」


「猫だぁ?」


悔しそうな騎士団員に隊商長は言葉を投げかける。視線の先には眠そうにしながら『非常に面倒臭い』といった表情の巨猫と魔女がいた。


「ねこちゃんは強いよ」


 眠たげな巨猫を撫でながら魔女は言う。とりあえずなんと言えば良いか分からなかったから言っただけだ。


 騎士団長が「やめておけ」と注意をするも、聞かない騎士団員は「じゃあ勝負しろ」と巨猫に勝負を仕掛ける。

 面倒そうな巨猫をよそに、呪猫当主が札から出てくる。


『鈍ってきているのではないか?』


 たった一言だったが、刹那、巨猫は殺気立つ。その気迫に押され、騎士団員は後退った。


「煽らないでよ」


 「落ち着こうねー、ねこちゃん」と巨猫を撫でると巨猫は瞬時に殺気を抑え、魔女に喉を鳴らす。その豹変振りに引きつつも周囲は「こんな使い魔の主なら、魔女の方が強いのでは」という話になった。


「えっ? わたし、医者だから……」


 そう否定する魔女に「身のこなしが常人でないと見受けられるが」と騎士団長は声をかける。


「軍医やってただけです」


そう答えると納得したようで、深くは追求されない。勝負に巻き込まれなかったのでよかった。


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