もちろん、宣言通りだよ。
「おっしゃできたーっ!」
と、薬術の魔女は自室で拳を握った。
「うーん、我ながら惚れ惚れする出来栄えだ……」
うっとり言いながら、茶色い小瓶に蓋をする。
薬術の魔女が生成したそれは、この間に採りにいった薬草をふんだんに使った、毛枯剤だ。
「薬を全部使いきったら間違いなく、つるぴかりんだよ!」
薬をかけた直後に毛が抜ければ、間違いなく現行犯で捕まえられてしまう。だから、色々な薬草を組み合わせて大体半月後くらいに一気に抜けるように調整した。
「ふふふ、覚悟しておけ……」
と薬術の魔女は笑う。顔知らないけれど。
×
薬術の魔女は薬が出来た旨を友人A、友人B、その2に伝えた。
「でも、どうやって仕掛けに行くのよ。仮に行けたとしてもばれないように薬をかけるなんて……」
友人Aは少し呆れ気味に薬術の魔女に問いかける。
「ん。そこはだいじょーぶ!」
薬術の魔女はグッと親指を立てる。
「……嫌な予感しかしねーぜ」
それを見て友人Bが呟き、
「口調、乱れてるって言ってるでしょう」
と、友人Aが友人Bの頬をつねった。
×
「……ということで、手伝って!」
「…………何故ですか」
とある昼休み、薬草園で薬術の魔女は魔術師の男に頼み込んだ。
薬草園のベンチの端に座る魔術師の男は普段のように冷たい顔で、同じく反対の端に座る薬術の魔女が手渡した小瓶を見つめる。
「だって。きみは宮廷魔術師だから、その人に会えるかもって思ったんだ。それに、わたしが『新人メイドでーす』って入って仕掛けたら圧倒的に怪しくなっちゃうじゃん」
口を尖らせ、薬術の魔女はつまらなそうに足をぱたぱたとゆっくり動かす。
「然様ですか」
その様子を見ながら、魔術師の男は短く溜息を吐いた。
「……其れで。此の薬品の効果は。其れと私には何か利益がありますか」
「うっ……」
じろ、と視線を向けた魔術師の男に薬術の魔女はたじろぐ。
「うーーーん……効果、は『その人の魔力に反応する』ってやつ……で、……きみには…………利益……は、ないかも……?」
「…………然様ですか。……では」
と魔術師の男は、うんうんと唸る薬術の魔女の方に少し詰め寄り、
「ん、なに?」
その顎に手を滑らせ、視線を合わせるようにする。
「にゃに?」
きょとんとした顔のまま、薬術の魔女が見つめ返すと
「『私の言う事を何でも一つ聞く』というのは如何でしょう」
目を細め、魔術師の男は提案をする。
「……と、まあ。其れは冗だ「うん、いいよ!」……本気ですか」
「うん。まずこの状態が『わたしの言うことを聞かせている』ような状況だし」
薬術の魔女はにこにこと笑顔でそう答えた。
「……まあ」
視線を少し巡らせたのち、
「……折角の婚約者の頼みです。如何にか致しましょう」
と、魔術師の男は小瓶を懐に入れる。
「ありがと! とりあえず、液体がその人の近くにある状態だったらなんでもいいよ! 飲むとか、かけるとか」
「そうですか」
「えへへ、これで共犯だねー」
「……そうですね」
そして、魔術師の男はなんかうまい感じに御守りにその薬を全て注ぎ込み、それを「とてもよく効く御守りです」と手渡して枕に仕込んでもらい無事に効果を発揮し切った。
ちなみに薬を渡した後はもうそのおっさんの事を微塵も覚えていない薬術の魔女。




