峻厳伐採4
移動前に、「君達の実力を確認したい」と騎士団の方から請われる。それを「いいですよ」と黒髪の若者が承諾したので手合わせをすることになった。
隊商長は「合流もできましたし、急ぎの荷物もありませんし。うちの荷物を傷付けないんなら好きにやれば良いですよ」と休憩に入って行く。
魔術使いの若者と聖職者の若者はあまり乗り気ではなさそうだったが、「自分達の鍛錬になるなら」と手合わせに参加するようだ。騎士団の方は『樹木の破壊者』との手合わせを喜ぶ団員、苦々しそうな団員など態度は様々だった。
一方で魔女は手合わせには興味がないので(というより技を磨く必要性も無く、魔女の役割は薬作りなので)、不参加だ。
「怪我を治すお薬、用意しとかなきゃだ」
と鞄を探り出す。それを心底興味なさそうに巨猫が見ていた。
×
手合わせの形式は騎士団員一人と若者一人で対決する形式のようだ。そして黒髪の若者、魔術使いの若者、聖職者の若者の順番にやるらしい。「じゃあお薬、6人分だねー」と魔女は小瓶を6つ用意する。
「成分、調べてもよろしいですか」
と魔女の用意した小瓶に興味を示す者が居たので、
「良いよ。でも、中身を減らしすぎないでね」
そう注意しておいた。
小瓶の中身を少量拝借した者は特殊な魔導機を使い、薬の成分を分析する。そうして
「複雑な構成ですね……目立つ毒性成分は無いようでしたので、使用を許可します」
と言われたのだった。
「(危険がないか確認されたってことか)」
そう、少し思考する。騎士団は王直属の部下であるし、狙われることも多々あるのだろうと魔女は理解した。
そうこうしているうちに黒髪の若者と騎士団員との手合わせが開始する。
×
順調に黒髪の若者、魔術使いの若者、聖職者の若者は騎士団員達との手合わせを終え、若者達の勝利で終わった。
負けた団員達は悔しそうだったが、「さすが『樹木の破壊者』だ」と評価をする。
若者達と騎士団員との手合わせを見ていた騎士団長が
「君達がうちに入ってきてくれると助かるのだが……」
と溜息を吐くほどだった。特段騎士団員達の動きは悪くないのだが、恐らく実践慣れしていないのだろう。
「誰から教えてもらったんだ」
騎士団員に問われ
「『霊の国』でギルド長と偽王国の騎士から。他は全部我流だよ」
そう、素直に黒髪の若者は答える。特に決まった師匠などはいなかったのだ。それは魔術使いの若者や聖職者の若者も同じようだ。実際、参考にした書物や人物はいるだろうが、特定の誰かの門下生にはなっていない。
「そうか。騎士団のやり方も覚えてみるか?」
「いいの!?」
騎士団員の提案に黒髪の若者は飛びつく。向上心があることは良いことだと魔女はその様子を眺めていた。
魔女の場合、自身の薬の師匠となるのは『おばあちゃん』だった。ついでに『黒い人』も。だから、通常の人間とは薬のつくり方が違うらしい。
騎士団との手合わせを終えて再び出発した客車の中で、黒髪の若者は
「『霊の国』で偽王国の騎士に指摘されたところを意識してるだけなんだけどね」
と少し零した。それに対して魔術使いの若者と聖職者の若者も頷く。
「少し癪に障るけれど」
「でも、指摘は的確でしたよね」
それを「まあ、相手が誰だったとしても、ためになったんならいいんじゃない?」と魔女は諌める。
「あなたを誘拐と監禁した人でしょ? もっと何かこう、言いたいことはないの?」
「さすがに罵倒ぐらいはしても良いと思いますよ……」
そう言い返されてしまい、魔女は返答に窮した。ちら、と横の巨猫に視線を向けるがどうでもよさそうな様子で魔女の側に居る。
「最近見ないね」
「逃げられたんだったわよね」
「どこに行ったんでしょうね」
「どこ行ったんだろうねー」と気まずい魔女と隊商長。知らんぷりの巨猫、呪猫当主。




