峻厳伐採3
出国した国が遠くになり荒野での旅がいよいよ始まった、と言う頃に隊商長が
「言い忘れていました。これから『金の国』の騎士団と合流しますよ」
と告げた。
「なんで?」
首を傾げる魔女と若者達に「私も理由が知りたいですけどね」と言いながら懐中時計を確認する。
「『樹木の破壊者』達が『義の国』に向かうときに連絡をしろ、と言われてまして」
「なんでかな?」
「聞かれても知りませんよ。ただ、悪い雰囲気ではなく……むしろ、どこか必死でしたね」
黒髪の若者の疑問を一蹴しつつも、隊商長は軽くフォローを入れた。
「だから、悪いようにはしないはずですよ」
それを聞き、魔術使いの若者と聖職者の若者は安堵した様子を見せる。魔女はあまり騎士団の事を知らないので「(騎士団って王様のところの護衛の人達だよね)」と、なんとなく考えただけだ。巨猫を撫でるとふわふわの毛並みは相変わらずだったが、(推定)冬毛だった頃と比べて少し量が減ってきたなと気付く。換毛期が来たのだろうか。ブラッシングをしても一切毛は抜けないのだが。
「軍じゃなくて騎士団なの?」
不思議そうに黒髪の若者が問う。『金の国』では基本的に魔獣の対応を軍部が、王や宮廷の守護を騎士団が行っていた。だから、総合組合は魔獣に関わる事業として軍部が関わっているのだが。
「はい。王直々の派遣だそうで」
と、隊商長は頷く。今まで国外に興味を向けなかった騎士団が、どうして今さら派遣されたのか。
「……何か、見えたんですかね」
隊商長は札に視線を向けるが、札は静かなままだ。
×
それから、騎士団と合流した。荒野の中に騎士団が隊商を待っていたのだ。
「お待たせしました。時間通りだとは思いますが」
そう、隊商長は懐中時計に一瞬だけ視線を向け、告げた。
荒野を移動できるのは主に隊商と冒険者だけなので、恐らく転移門を使ったのだろうと魔女は見当をつける。実際、周囲には補給用の大きな荷車などはあったが、移動したような痕跡は無かったからだ。
「すごい、本物の騎士だ……!」
「映像で見たことあったけど……」
「煌びやかですね……魔力の練度も桁違いです」
煌びやかな鎧の騎士団に若者達は高揚している。
騎士団の者達は「この人達が『樹木の破壊者』なのか」と感心していたり疑っていたりしているようだ。
「どうやって移動してきたんですか」
と案の定黒髪の若者が聞く。それに対し騎士団の誰かが「転移門を使ったんだよ」と答えた。
「……転移門?」
首を傾げる若者達に騎士団の者が転移門の解説を始める。要は総合組合や宮廷に用意されている特別な魔導機のことだ。特に宮廷にあるものは大きなものを移動できるように作られている。宮廷魔術師のような、魔力の多い者が利用しても安定できるようにだ。
「そんな便利なものがあるなんて知らなかった!」
と黒髪の若者は目を丸くしていた。
「というか、総合組合にもあるのね」
「荒野を渡らなくても行きたい国に行けるってことですよね?」
魔術使いの若者と聖職者の若者は呟く。
「こっちの商売あがったりになるんで、話したくなかったんですよ」
そう隊商長は舌打ちをした。「と言うか、資格がないと利用できませんしね」
どうやら若者達のことは騎士団達は知っているようで、若者達が向かう予定の『義の国』に用事があるらしい。そして、あわよくば若者達の樹木伐採の手伝いがしたいのだとか。
その大まかな理由は『偽王国に制圧された国の一つだから』。中立国である『金の国』は同盟国でもあった『義の国』を偽王国から解放する義務があるという。
ついでに言うと、そのすぐ近くの『教の国』も同じ状態らしい。




