諸問題の解決
巨大樹木を出た直後、今までいた大きな聖堂が消えていくのを魔女と若者達は確認した。恐らく本来の樹木が生えていたであろう位置にいつものように巨大な穴が在ったことも魔女は確認済みだ。
「みんな無事だよね?」
と黒髪の若者が確認し、「私達は無事よ」「信徒も無事です」と魔術使いの若者と聖職者の若者が返事をする。騒ぎを聞きつけたのか総合組合の職員達が駆けつけていた。
「じゃあ、きっちり教皇の居場所を吐いてもらおうか」
若者達は27番目を取り囲む。
「吐くわけがない」と27番目は強情だった。
「じゃあ、『するする吐くくん』使っちゃおうか」
そう、魔女が小瓶を取り出す。「何そのすごくダサい名前」と魔術使いの若者が眉を寄せたが、気にせず「自白剤だよ。聞かれたことを何でも答えちゃうの。経験人数とか、機密情報とか」と魔女は原液を一滴、27番目の口に落とした。
教皇の居場所は聖十字教本部の地下牢らしい。
×
ついでに所属している『精霊の偽王国』の情報を幾つか手に入れ、27番目を総合組合に引き渡した。そして教皇が捕えられているとされる場所に若者達と魔女(と巨猫)は向かう。
「偽王国の人、どうなっちゃうのかな」と黒髪の若者が呟く。『霊の国』を恐怖に陥れた総合組合長の場合は『霊の国』の総合組合の監視の下で働くことになっているが、27番目のやったことは世界中の聖十字教徒の暴走だ。規模が更に大きい。
「場合によっては『金の国』が裁くと思う」
と、魔女は至極真面目な声で答えた。『金の国』は中立国なので周囲の国の被害を鑑みてくれるだろう。それに、天地の神に守られている国だから正しく裁かれるのだ。
見つけた教皇は、少しやつれていた。聖十字教徒も世界的な十字教の教皇には手が出せなかったのだろう。酷い目には遭っていなかったようで若者達と魔女は安心した。
教皇は捕まった聖十字教の者達には
「自分達が行ってきたことを、よく反省するように」
と厳しく声をかける。だが、教皇は「罪を反省したら『神』も許してくれる」と言った。その言葉に感銘を受けたのか、信徒達は泣いている。
魔女は精霊信仰の派閥なので教皇のすごさは魔力量やかかっている奇跡の加護程度でしか判断できないが、優しい心の人だという感想を持った。星辰道の派閥の巨猫はどうなのだろう、とちらりと視線を向けたが心底興味がなさそうだ。
教皇は他の国と同様にこれから変わっていくつもりだと若者達に答える。
「私達の国を救ってくれて、ありがとう。君達に国の王としても、教皇としても感謝を伝えたい」
そうして、『美の国』および十字教から若者と魔女に感謝の気持ちとして特別な待遇をしてもらえることになった。具体的には晩餐会に招待してもらうとか、快適な宿の手配などだ。皆個室で魔女と巨猫の部屋もある。魔女や若者達は綺麗な部屋に大喜びだったが、巨猫はやや居辛そうだった。
ついでにいうと同じく『美の国』に留まっている呪猫当主と隊商長も特別待遇を受けた。それは呪猫当主と通鳥当主だからなのだが、若者達はよく分かっていない様子だ。
×
「教皇様、優しい人だったね」
と黒髪の若者はぼんやりとした様子で呟いた。用意された宿は一つの階が若者達の貸し切りになっている。丸ごと貸し切りになる予定だったが、それを若者達と魔女が辞退したのだ。(ちなみに有名人となってしまった若者達と魔女を見に人が集まったり取材やら色々あったりしたが割愛)
「それはそうでしょう。十字教で最も偉い人なんだから」
魔術使いの若者も「本物はやっぱり違うわね」と感心している。
そこに、聖職者の若者が戻ってきた。そして。
「皆さんを危険な目に遭わせて申し訳ありませんでしたっ!」
と綺麗な土下座を決めたのだ。
×
「そんな、気にしてないよ」と黒髪の若者と魔女(少し引いてる)。だが、
「そうね。許さないわよ」
と魔術使いの若者は冷たく言い放った。「そんな」と驚く黒髪の若者を「黙りなさい!」と一喝した後、
「……でもまあ、これからも一緒に旅してくれるなら。いつかは許してあげる」
ほほを染めながらも言葉を続ける。
「はい!」
それに、心底嬉しそうに聖職者の若者は返事をした。
×土下座について×
正しくは土下座の形をした土下座に近い意味を持つ格好。
申し訳ないという気持ちを表すために地面や床に跪いて謝ること。
魔力の一時保存場所である目と魔力放出器官である手を地面に伏せ、首を差し出すことで「生殺与奪の権利をあなたに委ねます」と言うかなり重めの謝罪方法。
目を伏せ首を垂れる姿は処刑される罪人の行うポーズによく似ている。




