来年
意識だけは残しておいた回復役の親衛隊達の魔力を限界まで引き摺り出させ、他の眠る親衛隊達を修復させた。
勇者の体力もついでに治したが、もう勇者には立ち向かう意思は残されていないように見えた。だが、警戒して結界を解くまで動けないよう、細工を施す。
「……扨。是で終いにしましょうか」
魔力だけが極限まで無くなった彼らをそのままに建物から出、結界を解く。
途端に目を覚ました親衛隊達が、既に過ぎ去ったこれからの作戦の話し合いをしようとし、しかし、急な魔力の減りに混乱を起こす。
何事だと勇者に問いかけるが、その質問等に答える事無く勇者は
「……もう、いいんだ」
と、力無く呟いた。
それを見届け、魔術師の男はその場を去る。
×
宮廷の、魔術師の男自身の仕事場である研究室にまで戻った。山積みになった資料の山がやや崩れそうにずれたので少し直す。
「お前にしては珍しい冗談を言ったようだな」
と、背後からかけられた声には振り返らず
「そうとでも言わねば、彼の『勇者』殿は諦めぬでしょうからね」
そう、魔術師の男はいつものように返した。
「そうか。それにしても真に迫るような言い方だったような」
「其れで。今回は何の話で御座いましょうか」
直ぐに本題に入らないので、魔術師の男は言葉を被せて声の主に本題を促す。
「もう少し楽しく話し合いをだな……まあいいか」
声の主は苦笑しながらも、
「来年の仕事が入った。場所は___で詳細は後で送る」
短く云う。
「それともう一つ。対象達は、『このままならば成人するまで異常無し』と判断された。これ以上の細かい監視は不要になる。つまり、」
そこで言葉を少し溜め、
「来年以降の視察の任が解けたぞ。良かったな」
声の主はいつものように、朗らかに告げた。




