壮麗伐採8
聖十字教の信徒達に襲われるも、運行は再開した。それからは特に大きな邪魔は無く、順調に旅は進んでいく。後ろに接続した客車には見張りとして時折若者達が様子を見に行くことになった。
だが、なんだか聖職者の若者の顔色が悪い。
「どうしたの」
病気だったら大変、と魔女は聖職者の若者に声をかけた。だが「なんでもないです」と答える。だが、やや怪しい。怪しいとは思いつつ、魔女と若者達は問い詰めないことにする。実際、熱中症や病気のような症状はなかった。精神性のものだな、と魔女はなんとなしに思う。
「(緊張、してるのかな)」
祖国に帰るだけだろうに、一体何に怯えているのだろうか。
「(――それはともかく)」
重要性が低いので聖職者の若者のことは置いて於き、巨猫に視線を向ける。
「(怪我、大丈夫かな……)」
巨猫の傷の具合を魔女は気にしていた。どうやら巨猫は腹に傷を負っているらしく、それを無理矢理魔力で繋いでいる様子なのだ。魔力は豊富に持っているのでしばらくは大丈夫だろう。だが、先ほどのような襲撃などで魔女に危険が及んだ場合、躊躇なく魔力を使うだろうことは容易に想像できた。それを繰り返した場合、傷を塞ぐ魔力が足りなくなってしまうかもしれない。
「(早く、ねこちゃんを治療しなきゃ……)」
客車の中では十分な治療を施すこともできないので、『美の国』に着くまで待つように言い聞かせる。聞こえているのかそうでもないのか分からない曖昧な返事がした。
傷の位置は具体的には分らないが脇腹のあたりで、傷はかなり深い。内臓も傷付いていて、傷の治りが遅くなるような毒や願いのようなものを感じる。かなり根深い怨みの感情だ。一体何があったのだろう、と魔女は心配になった。だが、夫の性格を顧みるとどこかで買った怨みなんだろうなと見当がつく。
「(……ねこちゃん、かなりぐったりしてる。やっぱり体力の消耗とか酷いのかもしれない)」
元気がなくて、魔女はやや焦る。血は出ていないのだが、怪我周辺から魔力や血液のような割と生々しいにおいがしていた。においがこもらないように客車は換気してあり、他にもこまめに浄化の魔術を掛けているので衛生面は大丈夫だと思われる。
巨猫の脈は弱っているものの、比較的安定していた。
口元に食事をもっていけば食べるし、飲み物も口内に流し込めば飲んでくれるのだ。
隊商長も看病の手伝いはしてくれる。「後で材料の請求はしますけどね」と言いながらではあったが。
ちなみに若者達が近付こうとすると低く唸り威嚇してくるので魔女と隊商長程度しか看病には携われなかった。
「とにかく、隊商で利用者の生き物が死んだとなると見聞が悪いですからね」
なんやかんや言いながらもかなり世話を焼いてくれるので、やさしいなと思う魔女だった。




